文化で勝る企業は成果でも勝る。LAPRASのバリュー策定プロセスと組織にバリューが必要な理由。
先日、LAPRASはいままで掲げていたバリューを一新して、新バリューを制定した。そのときのバリューの決め方や浸透させるための運用法について書いてみる。LAPRASの新バリューは、3つのメインバリューと12のサブバリューから構成されていて、よりシンプルかつ具体的になった。詳細は以下のリンクからみていただきたい。
新バリューはこちら:LAPRAS VALUES
バリューとは何か
バリューを社に浸透させるにあたり、まず「バリューとはこの会社では何なのか」を決めなければいけない。これは普遍的な定義である必要はなくて、その会社ごとの定義で良い。でもとにかく決めることが重要だ。LAPRASでは、バリューを以下のように定義した。
「ミッション達成のために」というのがポイントで、基本は組織ゴール達成に貢献するかどうかから逆算して作られるべきものだ。LAPRASではミッションの達成が組織のゴール(市場で1位になることでも、上場することでもなく)なので、「ミッション達成のために」という枕詞がついている。
バリューはいわば憲法のようなもので、他の場では許されたとしても、LAPRAS社というゲームのなかではそれは悪いよ、直してね、と判断することができるものでなくてはならない。それが「正しいとされる」の意味するところだ。個別のルールというよりは、ルールを規程する憲法という感じだ。
バリューは価値観なのか行動指針なのか?というと、今回は両方包含した。以前は価値観をバリュー、行動指針をアクションアジェンダとして分けていたが、たとえば「情報はオープンにすることが正しい」という価値観のもと「情報をオープンにすべし」という行動指針がつくられるので、実質的にはまとめたほうがわかりやすいため、両方まとめてひとつにした。
なぜ、組織にはバリューが必要なのか?
1. 競合に行動で勝る企業は成果でも勝るから
「競合に行動で勝る企業は成果でも勝る」これは自分のお気に入りの言葉で、「人として正しいことを」の著者ダヴ・シードマンの言葉だ。バリューはいわば「ここに書いてあることをし続けるとミッションに近づけますよ。勝てますよ。」というものをきっちり明文化したものなので、これが企業文化を作る。いわばバリューは企業文化を意図した形にデザインするためのツールだ。つまり、バリューが企業文化を作り、企業文化が行動を作り、行動が結果を生む。さらに言い換えれば、「文化で勝る企業は成果でも勝る」というわけだ。これは力強い企業文化をそなえ成功したNETFLIXやGoogleが証明していることでもある。極端な話、強いバリューを作ってしっかり浸透させれば、同じ市場で戦っている競合には勝つことができる。バリューが競合優位性になるのだ。
2. 「組織のN人の壁」を超えるため
文化は雑草のようなものだ。手入れをしなければどんどん勝手に生えていき、声の大きい人が言ったことやメンバーの前職の風習などが自然と定着していき、組織が30人程度にもなれば気づけば組織という庭に見たこともないような醜い雑草たち(中には簡単に抜けない大きなものも)が生えているということにもなる。「30人の壁」などといわれている組織のN人の壁の原因のひとつがこれで、多様な価値観の持ったメンバーによる組織分断が起こるというのがよくある話だ。バリューを通じてこの雑草を抜いたり剪定したりして企業文化をデザインしなければ、特に30人になる頃には何らかの大きな問題を抱えることになる。
UZABASEやGoodPatchといった企業も、こういった壁に直面し、それをバリューやミッションの明文化で克服していることを彼らの記事で書いている。組織の人数が30人を越えたあたりや、組織が急拡大したタイミングが危機の起こり目のようだ。
「浸透するバリュー」よりも「勝てるバリュー」を
バリューの話をすると、「どうやって浸透させるか」をよく聞かれる。それはもちろん大事なことだが、それよりも重要なのが「本当にそのバリューで合ってるか」「勝てるバリューか」だ。これは企業のビジネスモデルにも依存する話で、最初は代表個人の価値観で問題ないかもしれないが、それが本当に組織を成長させるとは限らない。別な言い方をすれば、バリューは「設定することで正しくミッション達成や成長に寄与する」ものでなければならない。バリューの目的は組織に浸透させることではない。バリューの目的はバリューを通じて強い(勝てる)企業文化を作ることだ。
バリューが本当に組織の目的に寄与しているかを正しく計測するのは本当に難しいが、「社員から重要と思われているか」はひとつの尺度となる。寄与しているなら、日々の仕事で重要という実感が生まれるはずだからだ。そこで、バリュー改定前に旧バリューに対して浸透度と重要度に関して社内アンケートをとった。その結果がこれだ。
表上の数字はアンケートの各項目を平均したもので、重要度と浸透度の相関は概ね高いように見える。ただ、社員からみた重要度が低いからといって本当に重要でないとは限らず、ただ意味が伝わっていないだけかもしれない。それはひとつの参考として、バリューを作る担当者がフラットにミッションに寄与するかを考えなければならない。
バリュー策定のためのプロセス
今回バリューを変えようと思ったのは、組織のミッションを変更した(これに関しては別記事で説明予定)が主な理由だ。その他に、重要度が低いと思われているバリューを本当に重要なのか吟味すること、そして組織が30人にさしかかろうとしていたことがある。
バリューの決め方はいろいろあるが、今回とったバリューの検討プロセスは上の通りで、1ヶ月程度の時間がかかった。スタンフォードの教えるプロセスや先程のGoodPatchのプロセスも参考にしたが、ワークショップ形式ではなく非同期的な方法を使った。
まず、既存のバリューに関しての浸透度と重要度を取る上記のアンケートを行い(課題発見)、次に組織に対して「今の組織の課題感(課題発見)」や「ミッション達成において重要と思われる価値観(発散)」をアンケートした。これはフリーアンサーで、今のバリューに関わらずとにかく発散を目的として行った。加えて成功している企業バリューを調べ、そこに共通しているバリューを抜き出してそれらをすべて並べた(発散)。
ここでテーブルに出たものを意味の近いものでまとめ、自分が思うミッション達成における優先順位をつけた(収束)。この時点で経営陣やHRをはじめとしたメンバーに優先順位を壁打ちして、いろいろな意見をもらい、優先順位をビジネスモデルをふまえた確かなものにした(バリューとサブバリューを分離するというアイディアもこのときに得たものだ。特に、HRの@320KZCDに教えてもらったGitLabのバリューや運用方法は大いに参考にした。)。 これをバリューとしてまとめて、ステートメントのブレストをして、社員からの意見を収集して、最終FIXをした。(実を言うと、最終FIXは3回くらい行った。「より良い決定のためなら、決定は何度でも覆す」というのもLAPRAS VALUESのひとつだ。)
そして、最後には優先順位を決めている。
で、バリューを浸透させるには?
先程は「浸透するよりも勝てるバリュー」と言ったが、「バリューは策定よりも浸透が大事」というのもまた事実で、勝てるバリューを作っても浸透しなければ意味がない。ここからは皆が興味をもつ浸透の話をしよう。我々もまだ浸透させきれていないので、「こうしようと思う」というものに過ぎないが、意気込みを込めて書いておこう。
バリュー浸透の鍵は「曖昧性排除」
バリューはなぜ浸透しないか。覚えていないからなのか?意識できていないからなのか?それもある(単純接触効果は大事)が、もっと根本的な理由は、「どんな状況でも正しいのだと思えていない」「現場の判断を左右できるほどバリューが明瞭でない」ということなのだ。つまり、曖昧性があることがバリュー浸透を妨げるひとつの大きな原因なのだ。
たとえば以下のように、「ランニング・リーンだ、とにかく早くリリースしろ」といっているものの、バグがあってもリリースすべきなのか?ということに関してははっきりした回答がない。
「言葉ではバリューに反しているっぽいけど実際正しそう」「結局どっちが正しいかよくわからない」こういった状況を放置すると、バリューはいつの間にか形骸化する。しかし、このような曖昧な状況を正しい方向にぐいっと倒してこそ競争優位性に結びつくので、この部分の曖昧性を排除しなければいけない。ホラクラシーコーチのChrisCowanの言葉を借りると、「Contrast Two Positives(2つの良さげな案を比較できる)」できるような指針が良い指針で、逆に常に正しいバリューようなバリュー(e.g. 「誠実さが大切」「お客様を喜ばせる」)は「そりゃそうだよね」という感じで大して意味をなさない。
これを実践するためには、まずは「バリューと異なる行いを見たときに、その行動者に対してバリューを引用して積極的フィードバックをしてもらう」ということをメンバーにお願いすることだ(その前に、まずは経営陣の率先垂範が重要)。ここはガイドラインを作ると良くて、Slackの「#values」チャンネルにリンクを貼ってもらうとか、メンション先をつくるとか、いろいろだ(もちろん、この逆のバリューに沿う行いの称賛もとても重要)。
これは逸脱を取り締まるためではなくて、どっちが正しいかディスカッションするのが目的だ。もしかしたらバリューが間違っているのかもしれないので、その可能性も含めてオープンにディスカッションをする。
LAPRASにはホラクラシー上のロールで「ValueGuide」というものがいて、バリューの策定の他このようなディスカッションのファシリテーションなどを行う(私もValueGuideの1人)。バリューは永遠不変のものではなく、「ミッション達成の価値観や行動指針」なので、間違っていたら即修正しないといけない。バリュー自体も「ランニング・リーン」だ。バリューを評価に使わないのも同様の理由からだ。先に見たとおり「重要に思われているか」と「浸透しているか」に関しては一定の相関性があるので、重要と思われるようにバリュー自体を直していけば、浸透もおのずとついてくるといえる。
ただ、これだけだと「#values」チャンネルは盛り上がらないので、ValueGuideからQに1回バリューが守られているかの定期調査などを行う予定だ。我々も、新バリューの浸透にむけてあの手この手を尽くしている。
まだまだ制定されたばかりの LAPRAS VALUES だが、強い組織文化を作るためにいろいろなことを試していくので、見守っていただきたい。