採用サービス運営と米国トレンドから見えてきた日本の採用の未来

Hiroki Shimada
13 min readOct 21, 2019

日本初のAIヘッドハンティングサービスと銘打ったscoutyの事業を開始しておよそ3年が経った。その3年でサービス運営を行ったり、海外でのトレンドを見ていく中で、採用のあり方の変化や、今の採用方法の限界や、次の採用のあり方がだんだんと見えてきたので、今回はそれをまとめようと思う。

なお、LAPRAS SCOUT(旧scouty, 2019年4月より社名・サービス名変更)は現在はエンジニア採用に特化しているので特に前半はエンジニア採用に限定した話ではあるが、その多くは他の職種にも適用できる話ではあるので、採用全般の未来と考えていただければ良いと思う。

日本のエンジニア採用の現状

大前提として、日本は今深刻なエンジニア(IT人材)不足である。IT人材需給の予測では、エンジニアは2018年時点で22万人、2030年までに約45万人不足すると言われている[1]。人材の供給量はほとんど増えない一方で、需要が右肩上がりで伸びている。

出典:経済産業省-IT人材供給に関する調査2019

特に、クラウドサービス、ビッグデータやIoT、人工知能といった先端技術人材においてはさらに需給バランスが崩れており、従来型のIT人材より不足する傾向がある。

出典:経済産業省-IT人材供給に関する調査2019

それに伴い、当然技術系人材の求人倍率(採用予定人数÷転職希望者数)も増え続けるばかりで、2019年7月時点で9.73倍を記録している[2]

出典:doda 転職求人倍率レポート(2019年7月)

加えて、優秀な人材こそ転職する手段を多様に持っている(知人の会社に行く、副業先に入社するなど)ため、転職市場に優秀な人材が上がらなくなってきた。つまり、転職したいと思っている転職顕在層のみを採用ターゲットにしていくような採用は、終りを迎えつつある。

これは、採用サービスを運営していく中でも非常に納得がいく。LAPRAS SCOUTの顧客の多くは、「エージェントでいい人が紹介されない」「スカウト媒体でいい人がいない」あるいは「いたけどすべてアプローチし尽くした」という課題を抱えている事が多い。

つまり、今までの採用のやり方でもうまくいかないのに、今後の採用の実態はより厳しくなっていくということだ。従来の手法を無自覚に継承してきた採用活動を改めて見つめなおす時期に来ていると言えるだろう。

Recruiting Automationの台頭

そこで私が注目しているのは、Recruiting Automationと呼ばれている技術郡だ。Recruiting Automationとは、企業が採用のタスクとワークフローを自動化し、リクルーターの生産性を上げることを補助する技術カテゴリの総称で、HCM(Human Capital Management)のサブカテゴリでもある。米国でこのトレンドを牽引するのが entelo社で、2018年・2019年にRecruiting Automation Summit といったカンファレンスを開催している。米国では2017年、2018年から認知され始めた比較的新しいトレンドで、日本では言葉自体は存在しているものの、まだこういった意味での認識はされていないように思われる。

もともと、旧来の採用プロセスというのは転職意志のある人の応募を待ち、選考につなげるというものだった。しかし、優秀な人がたまたま転職活動をしてたまたま自社の採用枠に応募しにきてくれることなんてほとんど無いため、自分から声をかけてカジュアル面談をするなど、だんだんと前段階に追うべきKPIがずれてきた。さらに、転職潜在層にフォーカスをすると、候補者の認知や興味段階から追うことになる。

それにより、複雑化された各フェーズに最適化された自動化ツールが生まれ始めてそれぞれがAPIで繋がっていくということが起こっている。多くのTalent CRM(後述)はバックグラウンドチェックや面談調整のツールやATSとつながり、ワンタッチで候補者の情報を送受信できる。こうして採用業務は部分的にデータマイニングや高度なAPIを持ったSaaSによって自動化されていく。これが米国で起こっているRecruiting Automationの流れだ。

出典:https://www.entelo.com/

実際、過去の送信データに基づいてメールの自動添削やスコアリングを行ったり、候補者のスキルのみならず自社のポジションとのマッチ度までスコア化するソリューションや、自然言語処理を使って自動でキャリアアシスタントやキャリアマッチングを行ったりするソリューションも増えてきた。その一部は、最近だんだんと日本でも見られるようになってきた。Recruiting Automationは、今後の採用の変化を語るのに欠かせないキーワードのひとつだ。

出典:https://www.phenompeople.com/artificial-intelligence

採用ツールの価値は「たくさん採れる」から「良いCandidate Experienceが提供できる」へ。

このような米国の最新の採用ツールを見ていったときに、ひとつの共通点が浮かび上がってくる。それは、どのソリューションも、Candidate Experience(またはTalent Experience) の重要性を訴求しているという点だ(定義に関しては後述)。各社の製品特徴のページにはたいてい「Candidate Experience」という項目があり、自社の製品がそれを高められることを主張してくる。問い合わせページのCVボタンの横の文言ですら、「うちの製品ならCandidate Experienceを高められますよ」といったものが多い。

つまり、採用ツールの提供価値は「たくさん採れること」から「良いCandidate Experienceを提供できること」にシフトしつつある。求人倍率が高まった今の状況で、企業側より候補者側の力が増し、候補者が選ぶ側になっている。その結果、Talent Relationの重要性が高まり、ただただ自社の採用数を増やそうとする企業は採用ができなくなり、候補者に良い体験を提供できる企業が採用競争で生き残るようになったのだ。

私見だが、日本で採用がうまく行っていると言われるメルカリ社やSmartHR社は、こういった部分にいち早く着目し良いCandidate Experienceにこだわって採用プロセスや労働条件を設計できているのではないのだろうか。

次の採用におけるキーワードたち

2000年前後に採用の主要トレンドが、ペーパーメディア・求人情報誌から有料職業紹介にシフトした[3]。次に、2009年前後に採用の主要トレンドが有料職業紹介からダイレクト・リクルーティングにシフトした[3]。そして、2020年、ダイレクト・リクルーティングから次なるトレンドに採用の市場は動こうとしている。偶然かもしれないが、日本においては約10年スパンで採用の主要トレンドが入れ替わっている。

結論、次に来るトレンドは「顕在層のダイレクトソーシングから潜在層を育てるタレントマーケティングへのシフト」に近いもので、そこでRecruiting Automationが人事担当者の力にレバレッジを効かせてくるようなものになるだろう。そのトレンドにおける重要になりそうなキーワードを集めた。

採用マーケティング

見ず知らずの優秀な人材がたまたま転職活動をして自社の選考に訪れるということは殆どない。前述の通り、優秀な転職潜在層にフォーカスしたときに、追うべきKPIはより前段階にずれていく。選考数からカジュアル面談数、そしてカジュアル面談数から「自社の興味の数」「自社の認知の数」といったいままで可視化できなかった指標にフォーカスが移っていく。今後の採用は、より広くリードを獲得しエンゲージメントを可視化し、「釣る」から「育てる」といったパラダイムにシフトしていくと予想している。

CX / TX

Candidate Experience / Talent Experience。Candidate Experienceは、「採用候補者がどのように企業側のソーシング、採用、面談、オンボーディングプロセスを感じ・反応するか」と定義されている[4]。CXは単に面談の質やスカウトメールの質が良ければ高まるというものではなく、提示年収・面談対応者・ポジションのマッチ度・選考プロセスの丁寧さ、といった総合的なものが要素となる。

採用業務の分業化

時代の変化とともに採用業務は複雑化している。人事採用担当者が採用要件設定や候補者選定・ソーシングから面談まで行えていたが、複雑化した業務に対応するため、現場の人材が(エンジニアならばエンジニアが)要件設定や候補者選定を行ったり、採用マーケティングとインサイドセールス(面談を選考に転向させる役割)と面談担当者を分けて分業する、といった動きがより活発になると考えている。スクラム採用といった取り組みも、採用担当者だけではリーチできない層にアプローチしようとしている意味で、この流れの一つだと考えている。

Talent CRM

CRM のCは、「Customer」であることが一般的だが、このCが「Candidate」であるCRM(Candidate Relationship Management)が米国で誕生している。主要プレーヤーは、greenhouse CRM, beamery, Yello, Smashfly, Avature など。通常のCRMと区別してTalent CRMやRecruiting CRMと呼ばれることも多い。これはATSとは違い、選考にまだ入っていない人や会ってすらいない人(だが興味をいだいている人)を蓄積し、Cookie情報などを用いてナーチャリングを支援するといったものだ。採用マーケティングツールとセットで提供されているものが多い。

Recruiting Automation

出典:https://resources.entelo.com/2019-recruiting-automation-trends-report

Recruiting Automationは、AIやデータ解析技術を使い、複雑化した採用業務を自動化し、候補者に良いCandidate Experienceを提供してくれる。enteloの調査によると、80%の人事がRecruiting Automation技術が生産性を高めると回答している[5]。日本ではまだ言葉さえも認知していない人事がほとんどだろう。

LAPRASの立つポジション

今後のLAPRASは、「ただただ企業側から見た条件の合った人にスカウトが送られる」という体験から、より個人の興味や適性に合わせたフィルタリングをした上でアプローチされるという体験に近づけていこうとしている。そうしようとすると当然業務は複雑化するので、そのプロセスの一部をRecruiting Automation技術を用いてシステム化していくというのが大きな方針だ。

先日リリースした興味通知機能もその一環だ。企業側は、スカウトを送る前に送る対象となっている人に「興味通知」を送ることができる。企業側は、そのリアクションが返ってきた人に対して優先的にアプローチすることができるので、もとから脈なしの相手にはスカウトを送らなくて済むようになることで運用工数が下がり、受け取る側も興味のない企業からのスカウトを避けることができる。

「転職したい層に対していきなりDMを送りつける」といった意味でのダイレクトリクルーティングは終わりを迎えつつある。それに変わり、脈ありの層をなんらかの方法でフィルタリングしたり、優秀な潜在層を囲い込んでファン化させるといった新しい方法が、機械学習やデータマイニングといった新しい技術によって可能になりつつある。上記はほんの一例だが、LAPRAS SCOUTでは今後もそんな最先端の採用の形を提案していくつもりだ。

参考文献

[1] IT人材供給に関する調査2019, 経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

[2] 転職求人倍率レポート(2019年7月), doda
https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/

[3] インフォグラフィックで見る戦後からの採用の歴史, FUTURE OF WORK
https://10thanniversary.bizreach.biz/footsteps/

[4] What Is Candidate Experience? How to Define, Improve and Optimize It, Jibe
https://www.jibe.com/blog/candidate-experience/

[5] Entelo’s 2019 Recruiting Automation Trends Report
https://resources.entelo.com/2019-recruiting-automation-trends-report

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Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh