ホラクラシー組織のルール「Holacracy Constitution」をまとめてみた。【後編】

Hiroki Shimada
10 min readJul 1, 2018

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この記事は、scoutyでホラクラシー組織体制を本格的に導入していくにあたり参考にした Holacracy Oneによるホラクラシー憲法(Holacracy Constitution)を翻訳及び解説したものである。

Holacracy Constitutionはかなり長いので、3編の記事にまとめた。記事へのリンクと主な内容は下記の通りである。

後編である本記事は、ホラクラシー憲法の第4部と第5部を扱い、サークルメンバーが定義された責務以外に負う義務、戦術的ミーティング、サークルの初期化や憲法改正といったテーマついて書かれている。

第4部 オペレーショナルプロセス

サークルメンバーの義務

透明性の義務:サークルメンバーは、他のメンバーに要求された場合は下記の分野について透明化を行わなければならない。

  • プロジェクトとネクストアクション:自分のロールに関するプロジェクトとネクストアクションを共有しなければならない。
  • 優先順位:進めているプロジェクトやネクストアクションの優先順位を共有しなければいけない。
  • 展望:自分のロールに関するプロジェクトやネクストアクションがいつ完了するかという時期を共有しなければいけない。
  • チェックリスト項目と評価指標:自分のルーチンや繰り返し発生する業務を完了したかを共有しなければならない。また、リードリンクやその他のロールによって定められた評価指標のレポートを行わなければいけない

※ チェックリストとは、サークルメンバーが定期的に実行することになっている行動のリストのこと。

処理の義務:サークルメンバーは、他のメンバーからの下記のリクエストを処理するという義務がある。

  • 責務遂行のリクエスト:他のサークルメンバーは、サークルメンバーに対してそのロールの責務とプロジェクトの遂行を要求することができる。要求されたメンバーは、ネクストアクションがある場合はそれを明らかにし、すぐにとれるネクストアクションが無い場合は、何を待っているのかを明確にしなければいけない。
  • ネクストアクションへのリクエスト:他のサークルメンバーは、サークルメンバーに対して特定のネクストアクションをとることを要求しても良い。要求されたメンバーは、それが自分のロールに適合していると判断すればそれを行なう。そうでないと思った場合は、その理由を説明しなければならない。
  • 領域に影響するリクエスト:他のサークルメンバーは、他のロールの領域に影響を与えるような要求をすることができる。要求されたメンバーは、それを却下することができるが、その場合はその理由を説明しなければいけない。

優先の義務:サークルメンバーは、次のルールに沿って自分のリソースを配分しなければいけない。

  • 割り込み:同じサークルのメンバーからのメッセージや要求の処理は自分個人のネクストアクションよりも優先される。ただし、時間が制約されている場合やよりふさわしい時期がある場合は、それを延期してもよい。
  • サークルのミーティングは個人タスクに勝る:ホラクラシー憲法に規定されるサークルのミーティングに出席することの優先度は、自分のふだんのネクストアクションの処理に勝る。ただし、すでにミーティングの予定に先立って予定がある場合などは拒否することができる。
  • サークルの要求は個人のゴールに勝る:自分のリソースを配分する場合は、自分個人のゴールよりも自分の所属するサークルの戦略や優先順位に合わせないといけない。

戦術的ミーティング

Secretaryは戦術的ミーティング(Tactical Meeting)のスケジュールを決める責任を持つ。Facilitatorは戦術的ミーティングの司会進行をし、それがルールを守って行われるようにする責任を持つ。

戦術的ミーティングは、次のことを目的としている。

  • ロールごとのルーチンやチェック項目の進行状況を共有する
  • サークルのロールに紐付いている評価指標のレポートを共有する
  • ロールごとのプロジェクトに関する進捗報告を共有する
  • サークルのロールのネクストアクションを妨げるようなひずみを減らす

戦術的ミーティングに出席するのは、サークル内のすべてのコアサークルメンバーと、ふだんガバナンスミーティングに招待されているメンバーである。

Facilitatorは、戦術的ミーティングの手順として普通は以下のものを使う。

  1. チェックインラウンド:各参加者が、自分の状態や考えていることやミーティングに対するコメント(なんでもよい)をシェアする。この間に、他の人の反応は許されない。
  2. チェックリストの確認:Facilitatorの進行に従い、各参加者は繰り返し発生するタスクのチェックリストに基づいて、その完了状況を伝える。
  3. 評価指標の確認:Facilitatorの進行に従い、各参加者は自分に割り当てられた評価指標に関するデータを報告する。
  4. 進捗状況のアップデート:Facilitatorの進行に従い、各参加者はプロジェクトや責務の進捗を共有する。参加者は前回からの進捗だけを共有するが、他の参加者から要求があった場合は、それを含めなければいけない。サブサークルのアップデートに関しては、Rep LinkとLead Link両方の発言を認める。
  5. トリアージ:Facilitatorは、ガバナンスミーティングと同じやり方で、各参加者からひずみに対応するアジェンダ項目を集める。各アジェンダ項目のすすめ方は、単純にアジェンダの提案者がひずみの解決の道筋が見えるまで他の参加者を巻き込んで議論をするというものだ。
    もしこのプロセスでネクストアクションやプロジェクトが承認された場合、Secretaryはそれをメモし、他の参加者に伝える。
  6. クロージング:各参加者は感想やこのミーティングをきっかけに生まれた考えを共有する。この間に、他の人の反応は許されない。

個別行動

組織のパートナーは、ある特定の状況下では、ロールとして許されている範囲を超えるアクションをとったり、ホラクラシー憲法上のルールを破ることさえ許される。そういったアクションを 個別行動(Individual Action) と呼び、下記の条件をすべて満たしたときに取ることができる。

  1. 組織そのもの、あるいは組織内のいずれかのロールの目的に対して貢献するという確信があること
  2. 自分の行動により解決される組織のひずみが、それによってつくられるひずみより大きいという確信があること
  3. 自分の行動により、自分が許される範囲を超えた組織のリソースを使用しないこと
  4. もし自分の行動が他のロールの領域を犯す場合、そのロールの許可をとるか、それが許されるようにガバナンスを変更するのに通常かかる時間以上、その行動を遅らせることができないこと。

もし個別行動を取る場合は、 その行動と意図を説明する義務がある。また、この行動が繰り返される場合は、ガバナンスミーティングにおいて提案することにより理想と現実のギャップを埋めなければいけない。

第5部 憲法採択の事柄

Ratifierの権限譲渡

Ratifierは、憲法を取り入れた時点で組織を運営したりガバナンスを執り行ったりする権限を譲渡しなければいけない。ただし、憲法上明確な規定がある場合はその限りではない。

アンカーサークル

Ratifierは、組織そのものと同じ目的を持った最初のサークルを作らなければならない。このサークルをアンカーサークルと呼び、組織の一番外側のサークルとなる。

Ratifierは、アンカーサークルのLead Linkを任命しても良いが、任命しないままサークルを離れることもできる。Lead Linkのかわりに何名かのCross Linkを任命しても良い。

Lead Linkがサークルにいない場合、Lead Linkがもつ権限(ロールの任命など)はガバナンスプロセスに委ねられる。つまり、Lead Linkがきめていたことはガバナンスミーティングでの提案としてあげなければいけない。

アンカーサークルは、自動的に組織そのものと同じ目的を持つことになる。アンカーサークルの目的はいわば組織のミッションのようなもので、アンカーサークルのLead Linkはそれを決める責務を持つ。また、アンカーサークルの名前を決めることが出来る。アンカーサークルは、スーパーサークルを持っていないのでRep Linkを決める必要もない。

最初のサークル

アンカーサークルのLead Linkは最初のサークル構造とガバナンスを定義することが出来る。この手続きは、憲法の定めるガバナンスのプロセスは必要ない。もし最初の構造にサブサークルがあった場合、各サークルのLead Link がサークル内の構造とガバナンスを同じように定義出来る。このプロセスはあくまでも、ガバナンスが始まる前の出発点となる構造を定義することだけに使われる。

古いシステムとポリシー

憲法を取り入れる前に存在していた組織のシステムは、たとえそれがガバナンスの記録にない制約や権限を含んでいたとしても、憲法を取り入れたあとも継続する。これは、報酬・雇用・解雇・その他労務関連の事項も含まれる。

しかし、これらの以前の体制から受け継いだ古いシステムやポリシーは、憲法にこれと矛盾することやこれを置き換える事項が定義された時点で効力を失う。それに加え、こういったことは古い形式で追加・改修がなされてはいけない(憲法上で規定されなければならない)。

憲法の改正と廃止

Ratifierとその後任は、彼らがよりどころにしている規範やプロセスに則って、憲法をまるごと廃止したり改正することができる。憲法改正は、書式で行われなければならず、かつ組織のパートナーが全員アクセス可能な場所に公開されていなければならない。

ずいぶん長かったが、以上で、Holacrcy Oneが作ったホラクラシー憲法(Holacrcy Constitution)はすべてまとめ終えた。ホラクラシーといえば「階層構造がない組織」「マネジメントがいない組織」などと旧来の組織構造にかわる自由な組織体制としてもてはやされているが、この記事を読んでいただけたら、それが単なる自由と無限の裁量を与えるようなものではなく、厳密に定められたルールと構造によってもたらされているといったことがおわかりいただけただろう。したがって、単に「マネジメントがいないから無法地帯になる」といった解釈は的外れで、それがいなくても自律的に組織が回っていくような仕組みがルールや憲法によって規定されているのだ。

最近は「うちの会社は上下関係がない」などといった特徴だけをとってホラクラシーをうたう「ホラクラシーもどき」の会社も少なくはないが、自社でホラクラシーを導入したいのなら、まずは3ヶ月くらいこのホラクラシー憲法に則った組織運営をしてみることをおすすめする。破るならまずはルールを守ってからだ。

実際にscoutyではこのプロセスで、ホラクラシー憲法を守って数ヶ月運用をしてみた。それによって良いところも悪いところもわかったので、そういった内容や、そのさきに見えた理想の憲法の形というものも、おいおい記事にしていく予定だ。

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Hiroki Shimada
Hiroki Shimada

Written by Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh

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