ホラクラシー組織のルール「Holacracy Constitution」をまとめてみた。【中編】
この記事は、scoutyでホラクラシー組織体制を本格的に導入していくにあたり参考にした Holacracy Oneによるホラクラシー憲法(Holacracy Constitution)を翻訳及び解説したものである。
下記の前編記事では、ロールとサークルについて扱ったが、今回はロール自体の作成や変更といったガバナンスプロセスについてまとめを行なった。この記事は中編で、次回の後編ではホラクラシー組織の運用プロセスと憲法そのものの変更等について扱う。
各記事へのリンクと主な内容は下記の通りである。
第三部:ガバナンスプロセス
ガバナンスの範囲
ガバナンスプロセス(Governance Process)は、前部でもたびたび登場したが、ホラクラシー組織の管理体制(ガバナンス)に変更や定義を加えるプロセスである。ガバナンスプロセスは、以下の3つの権限を持つ。
- サークル内のロール及びサブサークルを定義・変更・削除する
- サークルの規定を定義・変更・削除する
- サークルの選出ロールを選出する
ガバナンスプロセスで決められたことが、サークルのガバナンス(Governance)として機能する。
ガバナンスの変更
コアサークルメンバーは誰でも、ガバナンスの変更を提案することができる。この提案(Proposal)を行なった人は提案者(Proposer)と呼ばれる。提案が採用される前に、コアサークルメンバーは反対者(Objector)として反対意見(Objection)を提案してもよい。提案は、反対意見が無いときのみ変更または採用される。
提案は基本的にはガバナンスミーティング(Governenca Meeting)内で行われるが、会議外で非同期的に提案されることも許される。その場合はSecretaryに認められた文字に残るコミュニケーションツール上で行うのが望ましい。会議外で提案された場合、Facilitatorは反対意見が無いことを確認し、ガバナンスミーティングに上げられる。ガバナンスミーティング以外の場でいつどののように提案が行われるかは、サークルごとの規約で定めることができるが、この非同期的に提案が行われるプロセス自体を廃止することはできない。
サークルのFacilitatorは提案者に質問をすることで提案が妥当なものかテストしてもよい。提案者は今抱えているひずみ(現状と理想とのギャップ)に関して例を交えて説明をし、提案によってそのギャップが小さくなることを示さなければならない。Facilitatorは、もしその提案の理屈が通ってないと判断すれば、ガバナンスミーティングの前段階で提案を棄却しても良い。
反対意見が上がった場合、解決案を探るのため下記のルールを適応される。
- Facilitator は、他のコアサークルメンバーから求められた場合反対意見を基準に照らし合わせて評価した上で、合わないと判断すれば棄却しても良い。
- 反対者は、提案者が提案したひずみ(現状と理想とのギャップ)を解決する変更案を探さなければいけない。Facilitatorが、反対者がよい解決案を探せないと判断した場合、反対意見は棄却される。
- 他のコアサークルメンバーは、提案者に対してひずみ(現状と理想とのギャップ)を明確にし、例を上げて説明することを求めることができる。Facilitatorが、提案者がそれに答えられないと判断した場合、提案は棄却される。
- 反対者が変更案を提案した場合、提案者はその変更案で解決できないテンションの例を挙げなければいけない。Facilitatorが、提案者がその例を提示できないと判断した場合、提案は棄却される。
ガバナンスミーティング
ガバナンスミーティングはSecretaryによって設定される。定例もあれば、臨時で開かれる場合もある。(月1定例などが慣習的なようだ。)ガバナンスミーティングに出席するのは、SecretaryとFacilitatorを含むコアサークルメンバー全員である。それに加え、Rep Linik, Cross Link, Lead Linkはそれぞれ最大1人づつ他のメンバーを呼ぶことができる。呼ばれた人は会議中はコアサークルメンバーとなる。ガバナンスミーティングには、上記に指定されたメンバー以外の参加は許されていない。
ガバナンスミーティングの大まかな手順は、以下のようになる。
- チェックインラウンド:参加者が1人づつ自分の思いや状況を述べる。他の人の発言は禁止。
- 管理上の連絡事項:Facilitatorが言及するに値すると判断すれば、管理上、事業上の話題を共有してもよい。
- アジェンダ(議題)構築:下記のプロセスでアジェンダを構築
- 統合的意思決定プロセス:各アジェンダの議論。手順は後述。
- クロージング:参加者は1人づつ、感想やミーティングを通して思ったことをシェアする。
ミーティングのアジェンダは、事前にではなく会議中に作られる。アジェンダの項目一つ一つはミーティングの参加者から会議中に上げられたもので、項目ひとつはひずみひとつに対応する形で挙げられなければならない。項目を出す際には、テンションに関して細かい説明や主張はせずに、概要だけ説明するよう心がける。アジェンダの順番はFacilitatorが定めるが、基本的には選出ロールの選出に関わる項目と、ガバナンスミーティングを要請した人が出した項目が優先される。順番が決まれば、下記のプロセス(このプロセスは統合的意思決定プロセスと呼ばれる。)で各アジェンダ項目をすすめる。
- 提案フェーズ:現在のアジェンダ項目の提案者がテンションを説明し、それを解決する案を提案する。提案者が他の参加者に提案を作る協力を要請し、Facilitatorが了承すれば、協調を行なっても良い。
- 質問フェーズ:参加者は提案者に対して質問をする。このときにディスカッションを行なってはいけない。質問が出なくなるまで続ける。
- リアクションフェーズ:質問が終わると、提案者以外の参加者が1人づつ提案に対してリアクションを共有する。自分の番以外では発言してはいけない。
- 変更フェーズ:提案者は参加者のリアクションを受けて、提案の変更を行なったり、コメントをしても良い。このフェーズでは、提案者とSecretary以外は発言してはいけない。
- 反論フェーズ:参加者は、提案に対して反論がある場合は1人づつ反対意見を述べる。前項で書かれたプロセスに従って、Facilitatorは質問を行い、その反論が有効かどうか判断する。この間、反論者とFacilitator以外の発言は許されない。もしこの過程で反論が有効でないと判断されれば、提案は採択され、Secretaryはその決定事項をサークルのガバナンスとして記録する。
- 統合フェーズ:反論が有効な場合、Facilitatorはその反論を解決するような新しい変更案を提案しなければいけない。反論者がその提案を認めれれば、その変更案は可決され、サークルのガバナンスとなる。この時は、Facilitatorは前項で述べたプロセスに従わなければいけない。
次に、選出ロールを選出する、統合的選出プロセスと呼ばれる手続きは以下の通りになる。
- 説明フェーズ:Facilitatorがこれから選出するロールとその機能に関して説明する。
- バロットを埋める:各参加者は、そのロールに最もふさわしいと思う人をバロットに自分の名前と共に記入する。自分自身を推薦しても良いが、復数人記入することは許されない。
- 推薦ラウンド:すべてのバロットが送信されたら、Facilitator はその内容をシェアし、投票した人が1人づつ理由を述べて行く。このときに、他の人の発言やディスカッションは許されない。
- 推薦変更ラウンド:すべての投票がシェアされたら、投票者には推薦する人を変える機会が与えられる。
- 次に、Facilitator は投票数を数えて、投票数が最も多かった人をそのロールとして提案する。もし投票数が引き分けた場合、ランダムで選ぶか、自己推薦している方を選ぶか、現ロールと同じ人を選ぶといった方法で選択する。
- Facilitaorは、前のプロセスで提案された人の選出に対して反対意見を持つ人がいないかを調べる。もし選ばれた人が出席している場合、まずはその人が反対意見を持っていないかを聞く。このラウンドは、通常の反対意見を収集するラウンドと同じように進む。反対意見があった場合、Facilitatorの判断で先の選出の提案を棄却するか決められる。棄却された場合、前のステップからやりなおす。
憲法とガバナンスの解釈
ホラクラシー憲法に書いてある解釈が各人ごとに異なる場合、それを解決するルールがホラクラシー組織には備わっている。ホラクラシー憲法の解釈は、下記の優先度で決まる。
- サークルのSecretary > サークルメンバー:サークル内で憲法の解釈が分かれた場合、そのサークル内でのSecretaryの解釈が、他のサークルメンバーの解釈に勝る。
- スーパーサークルのSecretary > サブサークルのSecretary:スーパーサークルのSecretaryの解釈は、サブサークルのSecretaryの解釈に勝る。
解釈が定められたら、Secretaryはその解釈をサークルのガバナンス記録を通じてサークルに公表する。その解釈はサブサークルも従わなければいけない。
サークルメンバーは、ガバナンスが適切に運用されているか判断してもらうようSecretaryに頼むことができる。Secretaryはそのように頼まれたら、憲法の解釈に従ってガバナンスが憲法に適切に沿っているかを判断し、適切でない箇所があると判断された場合は、その箇所をガバナンス記録から削除し、どの項目が何故消されたかを該当箇所のガバナンスに関係しているすべてのコアサークルメンバーに通知する。
プロセス障害
プロセス障害(Process Breakdown)は、サークルが憲法に記述されていることと相反するふるまいをした時に発生する。
コアサークルメンバーが十分に時間をかけてもガバナンスミーティングで提案をうまく処理できなかった場合、Facilitatorはプロセス障害を宣言する。提案者が、この提案を処理するためにガバナンスミーティングを発足させているケースは、この提案者もプロセス障害を宣言できる。また、Facilitatorは、自分のサークルのサブサークル内で憲法と異なるふるまいやアウトプットを発見した場合でもプロセス障害を宣言できる。ただし、FacilitatorがサブサークルのLeadLink か Facilitatorを兼任している場合は、Rep Link と Secretryもプロセス障害を宣言できる。
あるサークルでプロセス障害が宣言された場合は、以下の手続きが発生する。
- 該当サークルのスーパーサークルのFacilitatorがこのプロセス障害を修復するプロジェクトを引き受ける。
- スーパーサークルのFacilitatorは、そのサークルのFacilitatorかSecretaryに代わることができる。また、他の人にそれを任命することもできる。
- 該当サークルのFacilitatorは、サークルのガバナンスプロセスにおいて、ひずみや反対意見を検証するために出された議論が正確かどうかを判断する権利を持つ。
上記の権限は一時的なもので、スーパーサークルのFacilitatorがこの障害が修復したと判断すればすぐに元に戻る。
普通、サークルのプロセス障害はそのスーパーサークルでのプロセス障害とはみなされないが、すぐに解決しない場合は、そのサークルを包含しているスーパーサークルでのFacilitatorはプロセス障害を宣言できる。