ホラクラシーを補完する「SoulのPurpose」システムを創った話

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この記事では、ホラクラシーを実践する中でその弱みを補う「SoulのPurpose」という考え方を創った経緯や考え方について書く。
ホラクラシーって何?という方はこちらの記事をお読みいただきたい。

ホラクラシーの強みと弱み

ホラクラシーには強みと弱みがある。それぞれに関しては、ホラクラシーの功罪、そして理想の組織とはという記事で詳しく書いたが、その多くは「RoleとSoul(役割と人)の分離」という概念からもたらされる。Soulというのは人のことで、人と役割を分離するということはホラクラシーの本質的な考え方だ。

2つが分離されていることで人に対しての暗黙の期待が役割という形で明文化され、適材適所性が実現され、権限が適切に分散化する。しかし、その一方で、個人のミッションが曖昧になり兼務化が起こり、結果としてパフォーマンスが落ちるという問題も抱えている。また、マネジメントがいないため何かのロールにアサインされるときに自分のキャリアや方向性を考えてくれる人もいない。考えることはあっても、CircleLead(LeadLink。ロールのアサイン権限を持つ人)のスタイルに委ねられるし、マネジメントではないCircleLeadにそこまでメンタリングすることを求めるのは過剰な期待だ。

ホラクラシー憲法にはCircleLeadはアサイン権限を持っているという記述しかなく、何に基づいてアサインを行えばいいかなど、アサインに関する指針が何も無い。そのためCircleLeadの独断で誰に何を任せるかが決まる。SoulとRoleを分けすぎたせいで、その人のやりたいことや今後のキャリアの方向性やモチベーションが置いてけぼりになってしまうのだ

普通、個人の意思が明確化されていないので、これに関して暗黙の期待や想定をしてしまう。あの人はマネジメントするよりもコードが書きたいんだ、とか、あの人はUIデザインよりもUXデザインに興味があるんだ、とか。しかし、この想定はずれていれば危険だし、すり合わせを行うにも多大な1on1の時間を食うことになる。

そこで導入した「SoulのPurpose」

この問題に対処するため、私達は「Soul(つまり人)にPurposeを設定・明文化する」というアプローチをとった。いわばホラクラシーのエクステンションとして、Soulという「人」の概念を作り、そこに目的を割り当てるというやり方だ。

目的といったときに、ふたつの意味合いがある。ひとつは、「なぜこの組織で働いているのか」というそもそも目的で、これは「お金を稼いで家族を養うため」とか「居場所がほしいから」というものでも良い。もうひとつは、「組織内での自分の目的」で、自分の使命やミッションに近いものだ。これは会社から与えられたものではなく、あくまで自分の中にある意思・ウィルのことだ。もとの課題を考えた時に、正しくアサインをするためにはこの2つの両方が必要になる。

そこで、我々はSoulのPurposeを「なぜこの組織にいて、ここで何がやりたいか?」というものと定義した。これは誰かに設定してもらったり会社から与えられるものではなく、周りの人との壁打ちやコーチングを経て自分で設定するものだ。

SoulのPurposeはアサインのガイドラインとなり、CircleLeadのアサインの際の道標になるほか、自分が何かのアサインを受けるときの意思決定にも使える。つまり、きちんと自分のPurposeにログインできていれば、そこに関係の無いアサインをきちんと断ることができる。これによって、兼務やフォーカスの散逸化の問題もいくらか改善できる。

ただ、これはあくまでアサインを規定するものなので、SoulのPurposeがホラクラシー組織上の責務や権利を規定することはないことに注意が必要だ。

例として、自分のPurposeは以下のような感じだ。自分の役割を明確化したことで、今自分のしていることはどれに該当するか、ということを考えるようになった。

なぜここにいるか・人生の目的:自分の信じるやり方で世界を変える
①自分が作りたい、やりたいと思えるプロダクトやサービス・世界を創っている
②それが世間に認められ、とても大きいスケールになっている
この両方を死ぬまでに満たすこと

ここで何をやりたいか:ミッションの達成と企業価値の向上
①ミッションを設定し、明瞭化し、組織のメンバーをミッション達成に向かわせる
②長期的なミッション達成の方向性の規定
③ミッションを達成するための経営資源(人と金)の調達
④執行役の人事とインセンティブ設計
⑤勝てる企業文化の醸成(バリュー・組織づくり)
⑥既存の延長線上に無い非線形的な成長の種を作る(PR・新規事業とか)

仮にこれが会社や社内の他の人の期待していることと違っていた場合は、そのことを伝える必要がある。だが、明文化されていない限りそのずれを発見することはできないので、明文化することがその第一歩となる。

SoulのPurposeを導入してみて

SoulのPurposeはワークショップ形式で導入を行った。本来はPurpose Coachingを専門とするコーチに一人ひとりコーチングしてもらうのが良いのだが、まだ初めての試みだったので、今回はPeerFeedbackという形で、少人数のグループに分かれ一人づつ自分のPurposeを発表し、同僚からフィードバックをもらって気づきを得たら修正を行うという形式で行った。

アンケートによる計測では、回答者の91%がワークショップを通じて自分のPurposeに対して気づきを得られたと回答した。

また、アサイン変更の指針になるかどうかを聞く質問では、78%がアサイン変更の指針になると回答した。

ワークショップを通じて実際にアサインを変更したという事例もあり、そういう意味では概ね果たしたい目的は果たしたといえる。あとは、人のやりたいことや目的は時間の経過とともに変わりうるので、それをどのように更新していくかといった課題がある。

ホラクラシーを創った Holacracy ONE が憲法の改正で人と人のつながりに言及したり、個人という軸をホラクラシー的な考え方に加えたLanguage of Spacesなど、組織がロールだけでは語れないということに、ホラクラシーを体験した人々が気づき始めている。ホラクラシーはロールとソウルを「分ける」考え方であって、ソウルを軽視しているわけではないので、このような考え方はホラクラシーの根本とも矛盾しないだろう。今後も、私達はホラクラシーの新しい可能性を追求していく。

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Hiroki Shimada
Hiroki Shimada

Written by Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh

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