スタートアップのブランディングはBVSから始めよう

Hiroki Shimada
Mar 31, 2021

よく、スタートアップにおいてブランディングはいつから何をすればいいのか?という疑問を聞くが、今回はスタートアップのブランディングのための強力なツールであるBVS(Brand Value Sheet) について紹介する。LAPRASでも最近BVSを作りブランドの目指す姿を明らかにしたので、その事例も交えて紹介したいと思う。

BVSとはなにか

BVSというのは、Brand Value Sheetの略で、一言でいうと自社のブランドのあるべき姿・理想の姿をまとめたシートである。ブランドには様々な定義があるが、ここでは「消費者(広義にはそれ以外のステークホルダーも含む)が自社のことを考える時に想起するユニークなストーリー」[1] のことを意味する。いわばブランドというのは消費者が自社について勝手かつ独自に思い浮かべるストーリーで、それを自社の目的に沿うよう意図したものに変えていくというのがブランディングおよびブランドマネジメントというものだ。BVSの各項目やLAPRASのBVSの例は後述する。

BVSが何故必要か

ブランドというのは、ブランドマネジメントチームが直接的に顧客に働きかけることで形成されるわけではない。自社の広告や製品やカスタマーサービス、記事やリリース、社員の発言など、自社の様々な要素が顧客と接することで自然と形成されていくのだ。たまにプロモーションの方法や活動をブランディングと捉えている人もいるが、それは大きな間違いだ。 たとえプロモーションを工夫してもサービスの中身の実態が変わってなければ、意図したブランドを構築することはできない。

したがって、意図したブランドを作るには、まずは社内を変えなければならない。つまり外部に展開すべきブランドの内部浸透を行い、それが外に染み出していくような体制を作ることがブランドマネジメントにおいては重要である。

ブランドマネジメントの全体像

だからこそ、ブランド・マネジメントは難しい。会社として一貫したブランド価値を提供していくためには、まずは社員がブランドの理想像に関して共通の認識を持たなければならない。その「理想の共通認識」を規定するのがBVSだ。現状はどうあれ、まずはこれを目指しますという像がなければ、ブランドを語ることもアップデートすることもできない。そのためブランディングにはBVS、少なくともそれに準ずる何かが必要なのだ。

スタートアップはブランドをいつから考え始めるべきか?

スタートアップはリソースが限られており、明日のために生きている部分もある中で、スタートアップがブランドをいつから考え始めるべきかはしばしば語られるトピックになっている。

これに関しては諸説あるのでこれという答えは無いが、個人的にはアーリーステージでは大それたブランディングは必ずしも必要ないように思える。ただし、ブランドというのは一度作り上げられてしまうと後戻りが効きづらいので、早い段階で社内の共通認識の明文化を行い、発信するものの統一化を行う必要はあるように思う(逆に言えば、それで十分だ)。 BVSは1回で作り上げて完成するものではなく、何度もブラッシュアップを経てできていくものなので、共通認識・認識のたたき台を作るという意味では作っておいて早すぎることは無いだろう。

BVSの作り方

BVSの項目

BVSはBVSと呼ばれていなかったり、別な呼び方をされていることもあるが、大きくは以下のような項目から構成される。これはこの項目でないといけないわけではないので、あくまで一例としてご覧いただければよいだろう。

  • MVV:ミッション・ビジョン・バリュー。ブランドバリューの基礎となるコアを言葉として表したもの。
  • 理想的な顧客像:ターゲットユーザーやペルソナとして、誰を想定しているのか。
  • ブランドパーソナリティ:ブランドの人格のようなもので、ブランドを擬人化した際にどのような言動や行動をしたりするかをまとめたもの。
  • ブランドプロミス:そのブランドが顧客に約束する一言[1]。Evernoteの「すべてを記憶する」や「買えるものはマスターカードで」など。
  • ブランドポジショニング:顧客の頭の中の駐車スペースを見つけ、誰かに先を越される前にそこに駐車すること[1]と説明されるような、製品の位置付け。
  • ブランドのコアバリュー:ブランドの提供するベネフィット(心理的・機能的)のうち、コアとなるもの。

LAPRASのBVSの例

LAPRASでは、2020年10月にミッション・ビジョンを変更したので、それに伴いバリューを変更し、同時にBVSも改めて明文化した。以下にLAPRASのBVSから一部のページを抜粋した。

ブランドスタイル(Verbal)としてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)があり、ブランドスタイル(Non-Verbal)として理想的な顧客像の他に、ブランドパーソナリティやブランドイメージを定義している。コアバリューやその達成方法をまとめてブランドイメージとしている。これは結果として他社と自社を分ける要因にもなり、ポジショニングとしても解釈することもできる。また、一般にはここでブランドプロミスを定義することも多いが、LAPRASではブランドプロミスという言葉を使わずに、コアバリューのマッチングの質へのこだわりを、ユーザーに対する質担保としてプロミスのような形として置いている。

ブランドパーソナリティは「ホスピタリティが高く、スマートな人格」として言葉でも定義しているが、それだけだと抽象的でわかりにくいので、ブランドパーソナリティ・チャートというものを導入し、実際に2つのニュアンスの中でどちらのイメージがLAPRASの人格に近いのかということをわかりやすく定義している。

BVSを運用しよう

上述のように、ブランドはデザインやプロモーションだけではなく、サービスの質やカスタマーサポートの中身などからも染み出していくものなので、社内浸透が欠かせない。BVSがもととなり、デザインガイドラインやPRのガイドラインができてくるので、作ったあとの運用が肝要だ。BVSを作ったあとはそれを運用し、実際のアウトプットを変えないといけない。

実際、LAPRASではBVSの運用として上のようなデザインガイドラインやサンプルを作った他、サービス説明文やサービスコピーの見直しを行ったり、ミッション・バリュー浸透のためチームごとに対話を行うなどのことをした。大きくプロモーションを行う場合や、PRを拡大する場合は、BVS、またはそれに準ずるものを利用したアラインメントをしてみるのはいかがだろうか。

参考資料

[1] ローラ・ブッシェ(2016), リーンブランディング ―リーンスタートアップによるブランド構築 (THE LEAN SERIES), オライリージャパン出版

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Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh