LAPRASに込めた想いと、その目指す世界
株式会社scoutyは、4月10日を以ってLAPRAS株式会社に社名変更した。それと同時に、今まで企業側にのみ公開していたクロールにより収集した個人の情報を本人にも公開するサービス「LAPRAS」を公開した。
この記事では、なぜ社名変更に至ったのかという経緯と、LAPRASという社名とロゴに秘めた思い、そしてLAPRASがこれから目指す世界観について書こうと思う。
なぜLAPRASなのか
ラプラスとの出会い
自分の小学校の頃の夢は科学者になることだった。その頃はタイムマシンを創るのが夢で、小学校の読書の時間にはアインシュタインの伝記や相対性理論の本を読み始めた。
そこから興味は相対性理論から量子論へと波及し、たしか中学生のときだっただろうか、「 Newton — みるみる理解できる量子論―相対論と並ぶ自然界の2大理論 摩訶不思議なミクロの世界」という量子論の本を手にとったことがあった。その本のイントロダクションで、私は「ラプラスの魔物」という概念を知った。そこに書かれていたのは宇宙を包み込む悪魔の手のイラストと、「仮に、宇宙のすべての物質の現在の状態を厳密に知っている生物がいたら、その生物は宇宙の未来のすべてを完全に予言することができるだろう。つまり、未来は決まっていることなる」という紹介だった。その本では、「量子論の登場によって、仮にラプラスの魔物がすべての情報を知ったとしても、未来を予測するのは原理的に不可能ということがわかった」という結論も紹介されていた。それでもなお、本当にラプラスの魔物のような存在がいるのだとしたらこの世界はどのようなものになるだろうという好奇心が、自分の心に深く刻み込まれた(これは中二病の一種だ)。
社名に込められた想い
LAPRASという社名は、そんなラプラスの魔物の概念になぞらえてつけられた名前だ。変更前のscoutyという会社名・サービス名は呼びやすく、気に入っていたので愛着もあったが、「スカウト(scout)」という単語が入っていることで採用サービスを連想させるのが懸念だった。後述するように、これから採用以外、HR以外の領域に進出することを考えると、いつかは変える必要があると感じていた。
LAPRASの目指している世界観は、単に採用・職業領域においてのマッチングを行うというものではなく、生活の中でのあらゆるミスマッチをなくしていくというものだ。LAPRASはオンライン上、長期的にはオフラインの情報も含めあらゆる情報を収集・集約する。そのうえで、一人ひとりにとって「本人以上に自分を知っている存在」となり、自分でも知らない情報や選択肢に関して気づきを与えてくれる。LAPRASのいる世界では、天職との出会いや、運命の人との出会いも、偶然でなくなるかもしれない。
いわば、LAPRASは現代版ラプラスの魔物だ。世の中のあらゆるデータを集め、偶然だった出あいを必然に変えていき、ミスマッチのような世の中の負を解消する。これはあくまでもメタファのようなもので、本家の言うすべての未来を予測するという存在でもない。そういう意味で本家のラプラス(Laplace)と同じつづりにすることも避けた。
19世紀のラプラスの魔物自体は「未来は決まっていない」という形で量子論によって否定されたが、この結論もいまや素敵なものだと思えるようになった。LAPRASは、監視社会を作り、人の未来や人生をすべて決めるわけではない。あくまで決めるのは本人だ。この世のすべての情報を知ったとしても、未来は決められないのだ。
ロゴシンボルに秘められた想い
このロゴシンボルは、社内のデザイナがディレクションする形で、外部のデザインパートナーと共に作り上げたものだ。要件としては、幾何学図形を組み合わせたニュートラルなものというよりは、アップルのロゴのようにアイデンティティの濃いもの、 将来のインフラとなるようなソリッド感や安定感、そしてテック企業を思わせるクールさといったものが挙げられた。最終案に行き着くまで、10案近くの他の案を考案した(その中には、もちろん魔物をモチーフにしたものもあった!)。
今回、人がモチーフになっているのは、あくまでLAPRASが「人」のために価値を提供するサービスであること、人の情報を中心に集められたデータベース(いわば「人」のGoogle)であること、パーソナライズを大切にしているサービスであることから由来している。
一見すると指紋のようにも見えるシンボルは意図したもので、将来LAPRASが指紋のように個人一人ひとりを識別するためのIdentifierとしての機能をもつという意味が込められている。あるいは、このマークが将来個人の各ページに対して発行されるQRコードのようなIDになるかもしれない。
また、シンボルの中央の渦の集積点のようになっている部分は耳を表しており、一人ひとりの声を「聴くこと」「傾聴すること」を忘れないという意味で中心に据えられている。
LAPRASの目指す世界
短期
短期的には、LAPRASを通じて人々がオープンになる状態、そして、その結果として転職市場の流動性が高くなる状態を作りたい。公開後の反響として、自分のスコアをTwitterに投稿する動きが見られたが、その中に、これをきっかけにもっとアウトプットしよう、と言ってくださったユーザーの方々もいらっしゃった。
これは私達としてはとても嬉しい反響だ。まずはLAPRASで確認したスコアを上げるためにブログ記事を書いたり、オープンソースにコントリビュートしたり、技術イベントに参加したりと、様々な形でアウトプットを出す人を増やしたいと思う。SEOならぬLEO(LAPRAS Engine Optimization)という言葉がでてくるかもしれない。LAPRASは人々がオープンにしているデータによって成り立っているので、クローズの人をどれだけオープンにできるかという点が極めて重要だ。
LAPRASのスコアはただの画面上の点数ではない。今後はこのスコアが高まっていることによって、様々な恩恵やサービスを受けられるようにしようと考えている。たとえば、このスコアが高いと年収の高いオファーが受けられたり、一流の企業からヘッドハンティングが来る、といった具合だ。
今まで、転職をするとなると、転職先や企業のリサーチをしたり履歴書を書いたりしなければいけなかったが、LAPRASではそのようなことは一切不要だ。自分の知らない間に履歴書にあたるページが作られ、SNSの上のアウトプットや嗜好性をもとにマッチングされた企業側から声がかかる。これにより転職のハードルは下がり、人はミスマッチを感じたらいつでも活躍の場を変えられるようになる。(その分企業側の獲得競争は激化するだろう)
オープン化、転職に関わる行動の自動化、それによる流動化とミスマッチの解消、これが我々が目指す戦略だ。
長期
LAPRASの会社としてのミッションは、「あらゆる事象を必然化し、世の中のミスマッチをなくす。」ことだ。ミスマッチがあるのは職業に限った話ではない。職業、友達、機会、所有物、人、本来巡り合うべきだが巡り合えていないことは、世の中にはたくさんある。それらに関係する情報をすべて収集し、然るべき選択肢や可能性を提示する、そんな現代版ラプラスの魔物をつくるのが夢なのだ。
たとえば、自分は大学院を海外で過ごしたが、欲を言えば大学や高校の頃から海外の環境に身を置きたかったと考えている。しかし、自分が中学生・高校生の頃にはそういった情報や選択肢にすら巡り会えるチャンスがなかったので、検討することもなく日本の高校や大学を選んだ。もし、自分の情報を自分以上に知っている友人のようなシステムがいたら、誰も教えてくれなかったチャンスを自分に提示してくれたかもしれない。
長期的には、下記のような情報を集めることによって、それを可能にしたいと考えてる。
- 能力情報:GitHubやLinkedinのようなビジネス・コンペ・レポジトリ共有系SNSなどから。
- 嗜好性情報:ブログや写真投稿・個人系SNSなどから。
- 行動情報:インターネット上・SNSの行動履歴から。
- 職務情報:転職履歴や年収情報などから。
- 与信情報:これに関してはまだ集める手段がない。新サービスをやるかもしれない。
情報をここまで取られると、監視社会のように映るかもしれないが、前回の記事の通り、私達はそれを本人の利益のために使いたいと考えている。LAPRASは、転職サービスというよりは、ライフログとして長い付き合いをしてほしい。
まだ至らぬ点も多いが、これから良いサービスにしていこうと思うので、長い目で見守っていただけると嬉しい。この名にふさわしい会社にしたい。