LAPRASがMatching Intelligenceで目指す世界

Hiroki Shimada
9 min readSep 2, 2020

先日、Matching Intelligenceに関してGroovesとLAPRASの提携が発表された。競合どうしなのに業務提携?と驚かれた方もいたかもしれないが、私はMatching Intelligenceのビジョンを目指す上とても有効な提携だと考えている。その意味を理解していただくためにも、我々がMatching Intelligenceを通じてLAPRASで目指すビジョンを共有しようと思う。

参考記事:グルーヴスとLAPRASがエンジニア採用領域で提携(LAPRAS)
参考記事:スキル可視化ポートフォリオ「LAPRAS」が人材紹介事業拡大、Crowd Agentと連携で(THE BRIDGE)

Matching Intelligenceとはなにか

Matching Intelligenceは、LAPRASにおいてR&Dとして始まったプロジェクトで、Tech Crunchの記事 にもある通り2020年2月から開発が開始され4月からクローズドβ版の提供が開始したサービスだ。

LAPRAS のサービス関係図

Matching IntelligenceはLAPRASを利用するユーザーに対して、人材紹介エージェント持つマッチングに近いマッチングを提供するサービスだ。転職を希望するユーザーには希望する業界や業種、希望年収や企業のカルチャーといった構造化した質問に回答してもらい、その結果を元にしてその人に合った求人を提案する。現在、提案は5件ごとに行われ、ユーザーはインターフェイスを通じてその提案に「気に入った」「気に入らない」というフィードバックを入れることができ、そのフィードバックに従って次の5件を提案する。合計15件提案して、最終的に面談を希望する企業が決まったら、人間のキャリアアドバイザーがその会社とつないでくれる、という流れだ。

現在はまだクローズドβ版で、サービスの提供価値を検証している段階だが、LAPRASを利用しているユーザーはLAPRASページからアクセスすることができる。

一人ひとりにパーソナライズされた専属マシンエージェント

Matching Intelligence の初期のコンセプトは、「一人ひとりにパーソナライズされた専属マシンエージェント」に近いもので、この名が付く前は「凄腕エージェントクローン」プロジェクトと呼ばれていた。実際に凄腕の人材エージェント数名に協力してもらい、マッチングのロジックや候補者に対する質問項目をヒアリングするなどしていた。いわば、日頃から自分に関しての情報を蓄積し、いざ転職する時には自分に合った最善の選択肢を提案してくれる専属エージェント(あるいはAIキャリアメンター)のようなものだ。今でもこの基本コンセプトは変わっていない。

エージェントと通常の検索の違いは、検索クエリがあるか無いかだ。検索というのは自分の欲しい物が明確な場合に明示的な検索クエリ(e.g. 「WEBエンジニア、東京、年収500万以上」など)を指定してほしいものを探すが、エージェントの場合は自分の状況や希望を伝えて、それにふさわしい選択肢を専門家に提示してもらう。転職のように選択肢が多く条件が複雑な分野ではエージェントのようなマッチングの仕方のほうがうまくいくケースが多い。しかし、そのように自分で調べるより良質な選択肢を提案してくれるエージェントはそう多くはない(エンジニアリング領域では特に)上、人によっても質にかなりの差が出るのが現実だ。Matching Intelligenceは、そういったエージェントによるマッチングを科学し、再現可能な形として量産することを目指している

4月から始まった初期の実験では、提案を受けた人のうち約85%の人がMatchingIntelligenceから提案を受けた企業との面談を希望した。現在は初期の提案ロジックとは変わっているが、人間のエージェントと比べても低い数字ではないだろう。体験した人に対して行ったヒアリングでは、多くの人が「自分では検索しようと思わなかったような求人を知ることができた」ということに価値を感じていた。ビジネススキーム上の制約のため形態は常に変化しているが、アルゴリズムによる人間を超える良質な提案の実現は、夢ではないようだ。

Matching Intelligence の目指す世界観

候補者を囲い込まない有機的なつながりで求人の網羅を実現

サービスの簡易モデル図

通常の求人媒体や転職サービスは求人の掲載を自社で開拓し、 これにより開拓された求人に対して転職者を紹介して、紹介フィーを得るというモデルだ。Matching Intelligenceは自社開拓した求人のみならず、今回のCrowdAgentのようなエージェント向けデータベースや、将来的には通常の求人媒体とも連携して提案求人の範囲を広げ、実際に紹介が成功した媒体とフィーをシェアするというモデルを取る予定だ。フィーの取り分自体は減るが、これによって1社では開拓できなかった範囲まで求人を広げることができる。これにより他の媒体にある求人まで網羅し、ユーザーは複数の媒体を検索しなくてもLAPRASひとつを見れば横断的に転職の選択肢を検討することができる。「もっと良いところがあるかもしれない」という思いで検索する必要はなくなる。

また、図にもある通り、アルゴリズムが成熟していないうちは人間のエージェントも介在させて、個別相談に乗ったり提案を行ったりと相互的な作用をさせていく予定だ。

マッチングデータを貯め、取れる選択肢を可視化する

現在はまだマッチングのデータが十分に溜まっていないが、今後マッチングが増えて書類選考や本選考の結果データが溜まってくれば、求人と人の情報を与えてある程度選考通過率を予測したり、どのような属性の人にどういった求人をマッチングすれば選考通過率が最大化するか予測したりすることができる。これができると、選考を受ける前段階で、本人が通過しやすい企業や本人にとって適切なレベル感の企業を提示したり、そこに対してのギャップを可視化したりすることが可能になる。

従来は年収の相場観や互いの市場価値はブラックボックス(どちらかというと企業やエージェントがその基準の情報を持っていることが多かった)で、これにより双方の条件が釣り合わないミスマッチや、マッチするところに到達するまでの非効率が存在したが、これが透明化されている状態では、マッチングは効率化する。そのためにまずは多数のマッチングを生んでいく必要がある。

LAPRASと連携し、使うほどパーソナライズ

LAPRASはSNSなどから情報を連携し自動でポートフォリオを形成するが、これは将来的にMatching Intelligence とつながっていく。ユーザーが望む限り、形成されたポートフォリオをジョブマッチングに用いることをできるようにする仕組みだ。現在はMatching Intelligenceは本人が入力したアンケートに基づいて能力やスキル情報を収集しているが、ポートフォリオを使うことによってこのような入力プロセスを省略することができる。さらに、LAPRASポートフォリオ情報を使うことによって履歴書に現れないような趣味嗜好や特性を拾うことができる。Matching Intelligenceでは求人提案への「良い」「悪い」というフィードバックをしていくと次の提案が改善されていく仕組みだが、このデータをLAPRASのプロフィールと結びつけて、使うほどにパーソナライズされる仕組みにすることも構想中だ。

現在は別サービスとして展開されているが、今後はLAPRASとの連携を強め、エコシステムとしてのLAPRASの価値を高めていく予定だ。

能力指標の標準化と可視化によるシームレスな選考体験

将来的にMatching IntelligenceがLAPRASと連携されることは、単なる入力プロセスの単純化以上のものをもたらす。それは、LAPRASページを少なからず選考プロセスで用いることができるという点だ。

私のLAPRASページの一部

この画像は、私のLAPRASページの一部で、その全体はこちらで公開されている。LAPRASページにはSNS情報の他、今まで出してきたアウトプットやLAPRAS SCOREといったものが掲載されており、公開URLを発行して公開することができる。LAPRASが普及し、我々がエンジニアの技術力として定量評価したLAPRAS SCOREが企業の選考に使えるようになれば、Matching Intelligenceによってマッチした顧客に転職者の情報がマッチングした時点で送られ、ただちにスクリーニングが開始され、シームレスな選考体験が実現できるかもしれない。履歴書は人類の大きな発明だが、電子的や構造化・標準化されていないのでMachine-Readableでない(人間にはわかるが機械にはわからない)という欠点がある。これが標準化されてくると、ある程度企業側も選考条件を設定しておいて、その条件への適合・不適合を判断することによって、選考を半自動的に行うこともできるだろう。我々は、そんな未来の標準形を作りたいと思っている。

Matching Intelligenceを体験するには

Matching Intelligenceは現在β版で、アルゴリズムの改修やビジネスモデルの仮説検証をやっている段階だ。まだまだ製品レベルは高くはないが、期間限定(現在は2020/9/4まで)で自分のLAPRASページ上からアクセスすることができる。転職意思が「中」「高」のユーザーに限定してLAPRASページに表示される。まだLAPRASページを持っていない方は、こちらからぜひサインアップしてみよう。現在は期間限定だが、仮説検証が成功すれば、LAPRASページから常時アクセスを可能にしていく予定だ。

ここに書いたことはまだロードマップ・構想段階で、サービスとしてはまだ仮説検証段階ではあるので、ここに書いた通りの形で実現できるかはまだわからないが、今後もオープンで新しい転職マッチング体験を作ろうとしているので、引き続きウォッチしておいていただけると嬉しい。

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Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh