LAPRAS 代表を交代します

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自分(左)と新代表の染谷さん(右)

2016年5月から自分は株式会社scouty及びLAPRAS株式会社の代表取締役 社長を5年半務めてきましたが、プレスリリースの通り、2022年2月1日の株主総会を以て、LAPRAS株式会社の代表取締役を辞任し、元執行役員COOの染谷さんに交代することになりました。LAPRAS BACKBONEの染谷さんとの対談記事の中で背景などは詳しく説明しているので、この記事では、そこに加えて今後やろうとしていることなどをお伝えしたいと思います。

代表交代の理由

一言でいうと、会社が自分が最も価値の出せるフェーズを越え、次のフェーズを迎えている中で、もっと代表としてバリューを発揮できる人にバトンタッチしたいと思ったからです。そこで、CEO・代表として最もバリューを発揮できると思った元COOの染谷さんに代表交代の打診を自分から切り出しました。

自分はものづくりやコンセプトメイキングが好きです。自分はscoutyの初期のプロダクトのプロトタイプやデザイン、「AIヘッドハンティングサービス」という初期のコンセプトや「世の中のミスマッチを無くす」というミッションなど、いろいろな0→1をやってきました。お陰様でLAPRASは成長しこの0→1フェーズを抜け出し、キャリアマッチングサービスとして利便性と収益性を高めるというフェーズを迎えました。そんな中より筋肉質な経営やよりタフな意思決定が求められるようになる中で、「自分はこのフェーズでバリューを発揮できているのか?」といった疑問が湧いてきました。そのあたりの時期から、次のフェーズに向けてもっとこのフェーズが得意な人に代表をバトンタッチしたほうがいいのではないか、と思うようになりました。「Exitもしていない中での交代は早すぎるのではないか」「途中で投げ出しているようで無責任なのではないか」とそこから1年半ほどずっと悩んでいましたが、そういう悩みを抱えたままトップに立ち続けるのも会社のためにならないと考え、9月に代表交代を決心しました。

また、ホラクラシーという自律的な組織体制もあり、自分に対する依存性も少なく、実質的に自分がいなくても組織が回り、今後も成長をすることができると確信したという事も理由にあります。他の組織形態よりも権限委譲のスピードが早く、まだ30人ほどの小さな組織ではありますが、事業運営はほぼ手離れした状態ができていました。

先日、SmartHRの宮田さんもCEO退任の記事を出されていましたが、会社の規模も成し遂げたことの規模も全く違いますが、書かれていることは非常に共感がありました。会社という10年、20年を越える時間軸の中で適切な経営者を選択するのは会社の成長にとっても重要ですし、タイミングに関してはExitした後にすべきだなどという議論は当然あると思いますが、その最適なタイミングは企業ごとに違うのだと思います。今後、スタートアップCEOのあり方はより多様化していくと思います。

これからのLAPRAS

染谷健太郎という新しいリーダーの下、これからのLAPRASはさらに早いスピードで成長していくと思います。実際、ここ数ヶ月は引き継ぎをし、新体制の下で動いていますが、実績的にも雰囲気的にもこれまで以上の勢いをもっていると実感できます。

LAPRASには、素早く試行して学習して変えていくことを大切にする「ランニング・リーン」というバリューがあり、それに基づいて通常の組織ではあまり変えることのないミッションやバリューもこれまでにわたり数回変更しています。ホラクラシー組織もいわば進化的でリーンな組織体系の実践であり、今回の代表交代もある意味では環境の変化に対応した試行と学習・修正の結果なのだと思っています。変化できることがLAPRASという会社の強みなので、これからいっそう強い組織になっていくことと思います。

これからの自分の関わり方

自分は今回の代表交代をきっかけに、一定割合の持ち株を新代表の染谷さんに移行しています。今回の交代では取締役も退任し、通常の外部株主となる予定です。今後とも外部株主としてLAPRASの資金調達や顧客獲得のサポートなどを行っていく予定ですが、事業レベルの大きなコミットメントはこれでなくなってしまいます。取締役として残っていくという事も考えましたが、LAPRASは取締役の人数も絞っている会社であるため、半端なコミットメントで関わることは会社のためにならないと考え、株主として関わるという選択をしました。

今後は、一人の起業家として新しいチャレンジをしていきたいと思っています。このことを認めてくださった投資家の皆さんや社員の皆さんには心から感謝しています。

これから何をするのか?

これからは、一人の起業家としてグローバルで新しいチャレンジをしたいと思います。結論から言うと、バーチャル世界の重要性が加速していく中で、より人々が自由になれるバーチャル世界を創る、というところに関連した事業をやろうと考えています。LAPRASでその事業をやるという構想もなくはなかったですが、事業ドメインが既存事業と離れておりどうしてもリソースが分散してしまうのでこのような形で実現をすることにしました。

ミッションは「人類をもっと自由にする」こと

新しいチャレンジを考えるに当たり、そもそも「なぜ」自分はこれをやりたいのか、という部分を深ぼり、一番最初に会社(まだ会社はないですが)のミッションを定めました。それが「人類をもっと自由にする」というミッションです。

人間は先天的にも後天的にもいろいろなものに縛られています。国籍や性別の他、人間関係やしがらみ、義務、空間的制限といったものです。一方で、長らく技術は人を自由にしてきました。電球は暗闇で活動できる自由を与え、重機は重労働から人を開放し、インターネットは人々を空間的制限を越えて繋がれるようにしました。しかし、現実にはまだまだ人間を縛るものが存在します。例えば、 本当はやりたいことがあるのに、稼ぐために働かないといけないといった状況や、「仕事に行きたくない」と思いながら仕事をするという状況、自ら性別や種族を選べないという先天的な不自由性、リセットできない複雑化した人間関係など、身の回りを見れば様々な不自由性が存在します。

自分がバーチャルな世界に可能性を感じるのは、バーチャル世界にはそれらから自由になれる可能性があると感じたからです。 アバターによって性別や種族に縛られない「なりたい自分」になり、また、バーチャル世界の経済性の発展により自由な職業選択が可能になれば、強制労働からも自由になれる人が増える可能性があります。技術の発展によってバーチャル世界でできることが増え、それによりバーチャル世界の価値はどんどん増していき、多くの人の間でバーチャルが主になる瞬間がくるというのは避けられない確実な変化なのだと思います。

ちなみに、「強制労働を無くしたい」という思いはLAPRASにも通ずるものがあります。LAPRASは選択肢との最善のマッチング、つまり天職とのマッチングを通じてそれを成し遂げようとしましたが、今回は新たな世界・経済圏を創ることで選択肢自体を増やすという方法でそれを成し遂げようとしています。

10年ビジョンは、バーチャル世界に経済圏を創り、より自由な経済活動を創造すること

ミッションの実現の方法は複数あるので、とりあえずこの10年で実現したい方向性を「10年ビジョン」として設定しました。それは、「バーチャル世界に経済圏を創り、より自由な経済活動を創造すること」、つまり今より自由な経済の実現です。

2000年以前は、現実世界の企業と何らかの雇用関係を結び、労働によって対価を得るという方法が個人の価値生産活動の主流でした。2000年以降になってくると、アフィリエイトでブログに広告を貼って小銭を稼いだりすることができるようになったり、ブロガーという職業や、YouTuberとして生計を立てたりする人、クラウドワーカーやフリーランスといった働き方も増えて、より「自由な」経済活動が実現してきました。そして2020年以降は、現実世界に縛られない経済活動を実現できると考えています。例えば、バーチャル世界でアイテムやコンテンツを作って売ったり、自分のバーチャル土地に広告を出したり、イベントを開催したりことで価値を生み出したり、戦いに勝つことでお金を稼いだりする活動も可能になるでしょう。

現在でもそうした動きは実現されつつありますが、それらはいずれも発展途上で、そのようにして生計を立てている人を見つけることは難しい状況です。今後の10年では、そのような新たな経済圏を作り、より自由な経済活動を実現するのを早めるというビジョンをもっていきたいと考えています。

その10年以降は、経済活動以外の観点からも人類を自由にすることを考えていきたいと思います。たとえば「人間を身体性から自由にする」「人間を物理的なインターフェースから自由にする」(たとえば電脳技術などによって)といったこともチャレンジしたいことのひとつです。

現在のメタバース・GameFi市場の概観

Shaan Puriの言う通りデジタル世界の存在価値がフィジカル世界の存在価値を超越するとき、真の意味でのメタバースがそこにあるのだと思います。それは単なる3D空間のことではなく、現実を”超越した(meta)”世界(verse)となります。その変化は個人個人で起こっていき、だんだんと広がる性質のものだと思いますし、これはずっと昔からオンラインゲームなどを通じて静かに起こっていることでした。その本質にはWeb2もWeb3も関係ないのです。

しかし、VRやWeb3関連技術のおかげでその変化がより起こりやすい環境が生まれ、今急激にそれが起ころうとしています。VRは「体験のリアリティ」をもたらし、NFTは希少性や有限性のシミュレートによって「価値のリアリティ」をもたらします。そのような技術によって、バーチャル世界が単なる3D空間以上の意味を持つようになり、GameFi ✕ メタバースという分野では上述のような新たな経済活動も実現されるようになってきました。

さらに、GameFiの分野ではPolygon/Matic(最近はガス代も上がっていますが)やSolana、NEAR、JumpNetなどのガス代が低く性能の高いチェーンやソリューションが登場した(する)ことによって、コンテンツ内でもいままではオフチェーンで実装してきたアセットをオンチェーンで実装できるようになります。すると今まではコンテンツの性質上比較的アセットのトランザクションが少なかったカードゲームやモンスター育成ゲームなどが主流だったところから、細かいアイテムのトランザクションが必要とされるRPGやMMOゲームなどといった新しく幅の広いコンテンツの実現が可能になります。

ただ、コンテンツに強い大手のゲーム会社がPlayToEarnの経済圏を作るには法的整備も整っておらずリスクが高い上、技術的にも難しさがあるので大手が参入できておらず、今はまだコンテンツの幅・質ともにリッチとは言えない状態が続いています。海外でもGameFiの分野はWeb2型の大手ゲーム会社がWeb3に新規参入する形ではなく、Web3に強いスタートアップや小・中規模のスタジオが牽引している状態が散見されます。今後ブロックチェーンゲーム・PlayToEarnのコンテンツは多様化していくと思いますが、今はまさに玉石混交状態でクオリティもバラバラな状態です。今後数年かけて、メディア(技術スタックなども踏まえた広い意味で)の収斂に合わせてコンテンツも収斂していき、よりマス化・一般化していくでしょう。しかし、そこまでは少なくとも3年程度はかかると読んでおり、メディアとコンテンツが収斂しきっていない今、スタートアップの参入余地はたしかにあるのだと思います(むしろスタートアップが牽引していかなければ育たない領域)。そして、今からの参入は、来たるWeb3メタバースコンテンツ多角化・マス化の波に向けて必要な技術力やコンテンツ開発力を養うのに必要な時間を与えてくれます。

NEXON CEOのOwen Mahoney も書いているように、現在のWeb3、PlayToEarn、メタバースという言葉には若干ユーザー視点が欠けているように思います(やや作り手、投資家視点に寄っている)。実は私も個人的にMMORPGをプレイする身で、日々世界中のプレーヤーとコミュニケーションしていますが、彼らはWeb3やブロックチェーンを使っているかどうかなど気には留めません。そこに時間を投じるだけの体験があるかということが重要なのです。そういった意味でこの作り手目線とユーザー目線の壁を乗り越えたプロダクトが出ない限り、これらの新技術が覇権を握ることはないでしょう。

今はまだ「ブロックチェーンゲーム」や「NFT」という話題性でユーザー獲得が成り立つ段階だと思いますが、今後、投機的混乱状態の解消(いわばバブル崩壊)やマスへの浸透によってより競争が激しくなり、ユーザーにとっては区別がなくなっていくでしょう。真に普及したとき、ブロックチェーンゲームといったカテゴリはなくなっているのだと思います。(高度な人工知能・画像処理技術を使っているはずのZoomのバーチャル背景という機能を誰も「人工知能」と呼んでいないように)

最後に

起業に向けて本格的な準備を始めるのはこれからなので、新しい出発に向けて今は実現したいことの具体化を進めていたり、それにむけた順番や作戦を構築したりという段階です。目指しているものはここに書いてあることですが、おそらくその最初のステップはかなり小さなものになるかと思います。何か具体的なリリースが出せるまではもう少しかかるでしょう。今はまだまだアイディア構築段階なので、Web3界隈の方、メタバース界隈の方、ゲーム業界の方、VCの方、起業家の方など、壁打ちを手伝っていただける方は大募集です。また、一緒に事業を立ち上げてくれる仲間も募集中です。何をやるのか気になる、ただ話をしたい、という方も大歓迎ですので、TwitterやFacebookなどから気軽にご連絡ください!

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Hiroki Shimada
Hiroki Shimada

Written by Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh

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