ホラクラシー組織への誤解と本当の意味

Hiroki Shimada
8 min readJul 31, 2018

--

ホラクラシー組織への誤解

近年、ホラクラシー組織という組織形態が注目を集めている。この単語についてネットで調べてみると、

  • 管理職がおらず、権限が個人に分散されている組織
  • 上下関係の無いフラットな組織
  • 自由度が高く、ルールが少ない組織
  • 情報がオープンな組織

といった情報がよく見られる。しかし、これらの特徴はホラクラシー組織の本質から派生した一部の特徴に過ぎないか、あるいは悪く言うと誤解、さらに悪く言うとデマである。実際に、上の4つの考え方のうち、3つは間違った考え方を含んでいる。

ここでいうホラクラシー組織とは、ホラクラシー組織という言葉を作り、「HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント」[1]の原著を書いた Bryan.J.Robertson の提唱するホラクラシー組織に準じている。彼はHolacracy One のファウンダであり、前回このブログでも日本語訳したホラクラシー憲法を作った人物でもある。

また、私達は実際にscoutyにおいてBryanの提唱する”本家”のホラクラシー組織を実践してきた。その実際の運用でもホラクラシーに関しての理解が深まったので、実際に運用してみてわかったメリット・デメリットは次の記事で書く予定だ。

ホラクラシー組織とはなにか

人ではなくロールが主役

ホラクラシー組織とはなにかを考えるために、まず語源から遡ろう。 [1] によると、ホラクラシーは、「ホロン」と「ホラーキー」いう言葉が語源になっている。

  • ホロン:それ自体で全体としての性質を持つが、より大きな全体の部分になっているもの
  • ホラーキー:ホロン同士の結びつきによる構造

一見意味がわからないが、ホロンというのはたとえば人体における臓器、都市における家庭、といったものだ。臓器はそれ自体としても一つの全体としての機能があるが、同時に人体という大きな全体の一部分になっている。したがってそれらの結びつきによってできている人体は、ホラーキー構造を持っていると言える。つまり、ホラクラシー(Holacracy)というのは、ホラーキー(hola-)の構造を持つ組織によるガバナンス(-cracy)のことだ。

そう考えると、「なるほど、ホラクラシー組織といのは、人がホロンになっているような組織形態のことか」と思う方もいるかもしれない。しかし、これは間違いである。ホラクラシー組織におけるホロンは、人ではなくロール(役割)なのだ。これはホラクラシー組織の本質とも言える考え方である。例えば、従来はマネージャーの仕事として「1on1をする」「新入社員の研修と指導を行う」「経営に進捗を報告する」というものがワンセットであり、それが特定の人に紐付いていたが、ホラクラシー組織では「新入社員の研修をと指導を行う」ロールを作り、これが誰にアサインされるかはLead Linkが考える。それに複数人がアサインされるとサークル化することもある。

ホラクラシーの目的は仕事を体系化することであって人を組織することではない。

とある[1]が、これは非常に納得感のある説明だ。ロールと人は多対多の関係であり、ひとつのロールを複数人でやってもいいし、一人が複数のロールをもつこともある。

ホラクラシーはフラットな組織ではない

組織の機能が体系化されていくと、サークルやロールが立ち上がっていく。(厳密には、ホラクラシー憲法解説記事前編でも解説した通り、サークル自体もロールである)例えばscoutyでは、Generalサークルの内側に開発組織であるDevサークルがあり、その中に機械学習機構の開発を行うMLサークルとWEBサークルがある。だから私は、ホラクラシー組織がフラットな組織と言われているのは非常に違和感がある。実際に、Bryan も、下記のように書いている。

「ホラクラシーはフラット組織だ」とか 「ホラクラシーは階層的組織だ」 というと、誤解 を招きかねない。ホラクラシーで使う階層構造は、私達に馴染みの深い階層構造とはタイプも違えば、目的も違うからだ。

サークルを階層ととらえれば、ホラクラシー組織にも階層構造は存在する。しかし、従来の階層的組織(ヒエラルキー組織)との違いは、階層の上に決定権があるわけではないということだ。サークルは完全に独立して動き、スーパーサークルはサブサークルの決定には干渉できない。しかも、ロールに領域が明文化されているため、 Lead Linkですらサークル内のロールの決定には干渉できない。中央集権型から分散権限型への移行ととらえてよい。

また、ホラクラシーにおいては、個人ではなく「ガバナンスプロセス」に権限委譲をしている。各ロールの目的やミッション・権限を決めるのはマネージャーや上司ではなく、ガバナンスミーティングである。ロールにアサインされる本人も含めて、民主的なプロセス(ただし合議ではない)で決められる。また、旧来の組織では形骸化しがちなガバナンスを、変化する組織の実態に合わせ定期更新する仕組みがガバナンスミーティングであり、これを繰り返すことによって組織内のひずみが自動的に解消されていくのもホラクラシーの特徴だ。

つまり、「管理職がおらず、権限が個人に分散されている組織」というのは、「個人」ではなく「ロールとガバナンスプロセスに」というのが正しい。

「ホラクラシー組織はルールが少ない」は嘘

ホラクラシーにおいては「ガバナンス」と「オペレーション」という言葉がある。ガバナンスは「誰がどういうことに関して責任と権限を持っているか」「組織の構成員の仕事の内容」といった「仕事の型」といった意味で、オペレーションというのはその型にそって仕事を遂行することである。

ガバナンス自体は旧来の組織にも存在した。しかしこれは通常は上司やリーダーによって決められ、だいたいは暗黙の了解となっている。しかも文書化されていたとしても「職務記述書」のような入社時以外誰も見ないようなものだ。この認識が上司と部下の間でずれていると、上司としては「あいつは全然期待どおりに動かない」、部下としては「仕事はちゃんとしているのになんで俺がせめられなきゃいけないんだ」といった気持ちになる。だからこそ管理が必要になり、上司が自分の期待通りの仕事を部下がしているかを観察しないといけない

ホラクラシーでは、個々のロールの責務や領域に関しきちんと明確化・メンテナンスされるシステムがあり、そのガバナンスの上には憲法という明確な規定が存在している。これがかなり複雑で覚える量も半端なく多いのだが、「何をしてはいけないか」が明確だからこそ、個々のメンバーが自由を発揮できるのだ。つまり、ホラクラシーは成分法(明文化された法律)を導入したことで管理を放棄できたといえる。

だから、ホラクラシーはルールが少なく自由!というのは誤解を含んでいる。実際に、Bryanも

役割と責務を明瞭にするためには、まず、自分が持つ暗黙の期待に他人も合わせてくれるという考え方を捨てなければならない。それにはきちんとしたガバナンスが必要だが、重要なのはガバナンスが暗黙のうちに行使されるものではなく、きっちり書面化されていることだ。

ホラクラシーのガバナンス・プロセスは明確な役割・責務・権限が規定されるので、ガバナンスが明瞭になる。(中略)こうして曖昧な暗黙の規範は力を失い、それに代わる透明性の高い文書化されたプロセスと、そのプロセスから生まれる明確な期待と権限が実権を握るのだ。

と言っている。よくホラクラシーのデメリットとして「管理がないからカオスになる」などと書いている記事をたまに見かけるが、それは正しくホラクラシーが運用されていないからだ。管理がなくてもカオスにならないようにデザインされたシステムがホラクラシーなのだ

ホラクラシーによる変化のまとめ

上記のホラクラシーによる大きな変化を、このようにまとめた。実際は、オープン性やひずみ解消サイクルなど、他にも特徴的なシステムがあるが、本質となるのは以上に述べたものだろう。

最近は「上下関係が無くて、情報がオープンで、上司が部下の決定に干渉しない」という組織のことをホラクラシー組織と呼ぶ傾向があるが、そういった組織をホラクラシー組織と呼ぶわけではないので、誤解のないようにしたい。ひょっとしたら、それはホラクラシー組織を包含している組織概念であるティール組織[2] のつもりで言っているのかもしれない。

一言で言うのは難しいが、ホラクラシー組織をあえて一言で説明するとしたら、「明文化されたロールシステムに基づいて、ガバナンス単位で反省と改善のサイクルを回しひずみを解消していく仕組み」とでも言うのが本質的かもしれない。しかし、この説明は実際にやってみないとピンとこないだろう。

参考文献

[1] HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント, ブライアン・J・ロバートソン, 瀧下 哉代(訳), PHP研究所出版, 2016

[2] 話題のティール組織・ホラクラシー組織の繋がりを実践的に徹底解説!, 実務とつなげる経営の新潮流, 2018

--

--

Hiroki Shimada
Hiroki Shimada

Written by Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh

No responses yet