プロダクトづくりにおいて「ペルソナ」は何の役にも立たない

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WEBサービスのプロダクトマネジメントやゲームのディレクションをしている自分ですが、ゲームでもWEBプロダクトづくりでも共通しているプロダクトの考え方について思うことがあったので書いていきます。

今日はプロダクトの「ペルソナ」についてです。

プロダクトやマーケティングの本やネットで調べたりすると、プロダクトの「ペルソナ」とは「ターゲットの人物像の具体化」であり、ターゲットセグメントを具体的な人物像に落とし込んだもので、以下のようなペルソナシートみたいなものに集約されると書かれています。自分も近々までそう思ってたのですが、最近これはほとんど何の役にも立たないという考え方に変わりました。

いわゆるペルソナシート(出典:https://sony-startup-acceleration-program.com/article810.html#header4

それはなぜか。簡潔に言うと、ターゲットの特徴をふんわりと全体的に持った都合の良い代表像となるような人は、実際のところ存在しないからです。人は何らかの偏りを持っています。そして、それらの人は合理やロジックで説明しきれない嗜好性をもった上で、自社の商品を選んだり選ばなかったりします。そういった予想外のところから学びを得ることで、商品の訴求や仕様の解像度が上がるのであって、自分達が顧客のことをすべて理解している前提で想像上の人物像を組み立てても、そんなものはクソの役にも立ちません。

何より、このシートは運用が難しいのです。チームでシェアをしても、目線が揃った感じはしますが、じゃあそれに合わせて何かアクションが生まれるかというと、そういうわけではありません。存在しないので意見も聞けません。結局、ドキュメント化されただけで共有されて以降チームメンバーの誰にも見られずお蔵入りするのがオチです。

プロダクトのペルソナ設定でたったひとつの重要なこと

プロダクトのペルソナ設定でたったひとつの重要なこと、それは、実際に実在する人物を指定することです。繰り返し言いますが想像上のペルソナには何の価値もありません。プロダクトの教科書にはよく「数の少ない特定の人を設定してはいけない」とありますが、これも間違いです。むしろ逆です。課題やニーズとしてまとまりを抽象化はできますが、人の特性自体は抽象化できません。

ペルソナが「ターゲットを抽象化した代表人物」でないとすると、ペルソナとは何なのでしょうか。

ペルソナとは「絶対にその商品を買ってくれる一人の実在する人間」のことです。「この人が買うと言っても他の人が買うとは限らないが、 万が一、この人が買わなかったら、世界中誰も買わない」それがペルソナです。

ペルソナをそのようにとらえると、「設定する」という動詞はちょっと違和感があります。「探す」というのが正しい表現でしょう。自社プロダクトぶっ刺さりパーソンを探す、それがプロダクトづくりのはじめの一歩で、このプロセスは絶対におろそかにしてはいけません。

プロダクトづくりは「絶対に買ってくれる一人の人間」探しから始まる

プロダクトのペルソナを、「絶対に買ってくれる一人の実在する人間」ととらえることの最大の恩恵は、そういった人が存在しないときに、プロダクトの有意性を反証できることです。

これが、PMFに向けた一番最初の仮説検証です。この作業に向き合ったことがある人はわかると思いますが、こういった人を探すのは、思ったより大変です。少なくとも想像上のペルソナシートを書くよりは大変かつ有用です。

ぶっ刺さると思った人にヒアリングをしたり企画書を見せたりして、ぶっ刺さるかどうかを判断していきます。ぶっ刺さらなければ、その仮定で、少しづつプロダクトの仕様を変えていきます。これこそが、ペルソナの最も有効な「運用」方法です。

多くの新プロダクトは、この時点で頓挫するかスキップしたくなります。しかし、世界は広いので、絶対に買うという人はいるはずです。いなければ仕様を変えるかそのプロジェクトを諦めましょう。

身銭や時間を払わせるのも重要です。「この商品を買うと思いますか?」と聞いてYESと言っただけではペルソナ探しは終わりません。ユーザーヒアリングのあとも、「どうやったら使えますか?いつ発売ですか?」と向こうから聞いてくるような人を探しましょう。

ぶっ刺さった人のその特性を一般化できるかどうかは、その後の話です。まずはぶっ刺さる人を探すこと、これをしっかりやります。深くぶっ刺さること、それが最終的な広さにも繋がります。

ペルソナの見つけ方

ペルソナを見つけるのは難しいです。

それを見つけ出す最も良い方法は、実際に会える友達の中から探すことです。社員やチームメンバーの友達でも良いので、とにかく自社のプロダクトやゲームがぶっ刺さる人を探して、ペルソナにしましょう。

それでも見つからない?そんなときはユニーリサーチというサービスがおすすめです。特定の条件でユーザー対象者を集めて、6000~10,000円くらいの謝礼で、一人に1時間ほどユーザーヒアリングができます。1人から試せるし、集まった人の特性を見ることでユーザーグループの男女比や年齢もわかるので、ターゲットユーザー設定に一気に手触り感が得られます。

ゲームづくりにおいてもおすすめです。過去にプレイしたゲームや好きなジャンルなどで絞り込んで、自分のゲームが刺さるかどうかや、ユーザーの特性を調べて行くことができます。

最後に飛び道具的な方法として、「自分」をペルソナにするという方法もあります。これは最終手段にしておいたほうがいいでしょう。はっきりと存在しいつでも意見が聞けるので悪い方法ではないですが、実際のユーザーは作り手よりも率直で無慈悲です。作り手として、どうしても思い入れが入ったり、偏りが生じてしまうので、可能であれば実際に実在する他の人を探しましょう。

ペルソナが見つかった?おめでとう。

それで第一関門はクリアです。ペルソナが見つかれば、まずは実際にオフィスに連れてきて、チームメンバーを交えて根堀り葉掘り質問するのが良いでしょう。シート上に記載された想像上の人物より、よりリアリティと手触り感があります。

ペルソナの「運用」方法としては、プロダクトのリリースまでに何回かその人を借りてきて、実際に触ってもらってテストをしてもらいましょう。後で追加された細かい仕様についても、それが役に立つかをヒアリングすると良いでしょう。実際に存在しているので、聞いたり試したりできます。それが実在しているペルソナの良いところです。テストには謝礼を渡しても良いですが、協力を拒むようであれば、それは本当のペルソナで無い可能性があります。なぜなら、本当のペルソナであれば、その定義上その商品を触ることやプレイすることを心から望んでいるはずだからです。

ペルソナは一人である必要はありません。1人見つかれば、3人、4人と増やしていくのも良いでしょう。中には、ペルソナごとに意見が異なることもあるので、そこはヒアリングをしてインサイトを得ていきます。

このように、自分達が知らないことをペルソナから得ることができれば、ペルソナを100%使えていると言って良いでしょう。これは想像上のシート内にいる山田さんの何倍もの意味があります。

想像上のペルソナに何の価値もない。この教訓はプロダクトづくりにおいて最も大事な考え方のひとつなので、タトゥーにして手の甲に彫っておくなり、結婚指輪の裏側に刻むなりして、覚えておくと良いでしょう。プロダクトをつくる息子、娘たちのために、墓標に刻んでおくのもおすすめです。

皆様のプロダクトづくりに、幸あらんことを。

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Hiroki Shimada
Hiroki Shimada

Written by Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh

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