オープンか、クローズか、選ぶのはあなただ
先日、scoutyについてあるツイートを目にした。本人の意向を確認していないので直接の掲載は控えるが、「scoutyの転職アラートに自分のツイートが捕捉されたせいで自社の上司に呼び出された」というものだ。転職アラートとは、SNSの投稿から転職可能性の高い人を見つけ出し、その人に興味のある会社に対して通知をするという機能だ(この機能への思いに関しては後述)。
実際に確認したところ、該当企業はscoutyのトライアル版を使っていたが、Twitterでの当該投稿が公開されたタイミングではトライアル期間が過ぎていたのでscoutyは利用しておらず、これが本人の言うようなscoutyの転職アラートによるものではない可能性が高かった(おそらく誤解)。
今回はおそらく誤解であったが、このツイートの反響として「監視社会こわい」「アカウントをプライベート化しよう」といった声があったのは事実だ。たしかに、この事実だけを受け止めればそう考えてしまうのも無理はない。しかし、それは私達が本当に作りたい世界とは違うもので、誤解されてしまったままでは不本意だ。そこで、本日、社名変更及びC向けのサービスの事前登録をリリースしたということもあり、scouty改めLAPRASがこれからどのような世界を作っていきたいかということについて、いい機会なのでいま一度表明しておこうと思う。
私たちが目指しているもの
それは世の中のミスマッチの解消だ。ミスマッチというのは身の回りに偏在している。優秀な高校時代の友達が本人の身の丈に合わないしょうもない仕事をしていたり、自分の能力に価値がないと勘違いしているせいで「つらい・やりたくない」と思う仕事を続けていたり、様々だ。(もちろん、これは職業に限った話ではない。所有物・食事・ライフスタイル・商談など、あらゆるものが自分とミスマッチしている可能性がある。)
現在の転職というのは、現職において相当の負が蓄積し、顕在化し、そこでようやく重い腰を起こし履歴書を書いて、自分に合う企業を検索し、何社もの面談を通じて転職が決まる、そういったものだ。本当は、負が蓄積しなくたって広い世界には今よりもっと良い職業や機会があるはずで、自分が転職を検討したくなる3ヶ月前にそういった機会の方から自分を訪ねて来たほうが良いに決まってる。「仕事がつらい」とTwitterでつぶやいた瞬間に、自分の今までしてきた発信やブログ・参加してきたイベント・読んだ本などから自分にとって最適な仕事のオファーが来て、即転職が決まる、そういった世界を築きたいのだ。
職場環境のひどさで過労自殺に追い込まれた会社員 のニュースも記憶に新しいが、彼女はSNS(おそらくTwitter)で自らの苦痛を訴えていたという。もし、scoutyをもう少し早く創業して、その投稿を転職アラートが拾って別な会社からスカウトが飛んでいれば、その会社を退職する後押しにもなったかもしれない。
Twitterでもブログでもイベントサイトでも、何かしら自分の情報をオープンにしていれば、誰でもその可能性に触れることができる。
目指すべきは情報のクローズ化でなく、自社の利益しか考えない企業の淘汰
もともと、冒頭の転職アラートは、SNS上の投稿や傾向から転職可能性の高そうな候補者を見つけ出し、採用する側の企業に通知する機能であった。本人にとってもそれが新しい職にめぐりあう機会となれば嬉しいし、それにより本当に転職が決まれば、ミスマッチをなくすことにつながると考えていた
この機能を自社の社員の引き止めに対して使うということは、この機能の本来の仕様ではなかった。もしこれがきっかけとなり社内での部署移動が決まるなどして負が解消されればそれは良いが、この機能を利用してミスマッチが起こっているにも関わらず不当に社員を引き留めたりようとするならば、それは大変不本意なことだ。そのような悪い使い方をする企業によって情報をクローズにしてしまう人が増えてしまうのも不本意だ。
この点に関しては、自社の利益のことだけを考えて社員を監視や言論統制したり、スパムスカウトを量産したりする企業が淘汰されていく仕組みを作る必要があると感じている。(放っておいても淘汰されていくと思うが)
とはいえ、今回の件は誤解ではあったものの、現在でも悪い使われ方をすれば企業だけの利益になるような事態も十分に起こり得る話だということは理解している。そこに関しては、機能の存続も含め今後も向き合って行かなければいけないと考えている。
これは、かつての「出会い系」かもしれない
かつて、男女がネット上で出会うことを目的としたサイト「出会い系サイト」といえば「ネットは危険」ということを示す象徴的な存在だった。ネット上の見ず知らずの人と会うのは危険だし、まして異性と会うなんてもってのほか、という考え方が主流だった。
しかし、今では デーティングアプリやマッチングアプリが当たり前に普及した上、Twitterで知り合った人と会うといったことも日常に起こるようになってきた。Twitterができた当初は、本名や顔写真を公開するだけで危ないからやめたほうがいいなどと言われたものだが、Facebookで名前を出し、instagramで顔を出し、そうこうしているうちにいつの間にかそれが当たり前になってしまった。人々の常識というのは、ある一つの革新的な動きから始まり、伝え方や見せ方の変化、そして時間の経過を通じて簡単にひっくり返る。
LAPRASがこれから作っていこうとしている、「すべてのオープンデータが人単位で統合されることによって個人の嗜好性や能力は浮き彫りになるが、それによって極度にパーソナライズされた体験が受けられる」という世界観も、かつての出会い系のように一時は「監視社会」として映るかもしれない。しかし、実際そこに身を投じてみれば、案外何も怖いことは起こらなかったなんてことはあるかもしれない。私達のサービスはまだまだ成熟しきっていないから、その過程でエンドユーザーの方にお粗末なユーザー体験をさせてしまうことはあるかもしれないし、実際にそのような失敗を何度もしてしまってはいる。だが、最終的にはオープンにした人が利益を享受できる世界を作れるとを信じている。
オープンか、クローズか、選ぶのはあなただ。
Facebookの個人情報流出事件などにより、クローズ化の流れはたしかにある。あの事件を例にとれば、データ解析企業 Cambridge Analyticaによる個人情報の政治利用が原因で、個人情報が不当に利用された。なにかを悪用したり、自分たちのためだけに利用とする者がいると、それを統制するために様々なルールや制約が設けられる。つまり、世界は悪意によって後退する。出会い系サイトが犯罪の温床になったのは事実かもしれないが、そのような悪意がなければデーティングアプリが普及したのも数年早まったのかもしれない。
LAPRASも、使う企業によって良いようにも悪いようにも使えるが、今後も世の中のミスマッチを解消されることに使われることを切に願っている。きっと、「自分の利益だけを考えない」ということが、オープンであることの本質でもあるかもしれない。囚人のジレンマにも近い話かもしれないが、皆が他人を信じて情報をオープンにすることによって、世界は少しづつ前進するのだ。
クローズであることが悪いというわけではない。自分の情報を自分だけで持ちたいと思うのは人間の当然の感情だ。だが、オープンになることで享受できる恩恵はオープンな者が増えるほどに大きくなるし、Facebookのような一件はあったが、それでも世界は総じてオープンな方向に向かっていると感じられる。それでもクローズであることを選ぶなら、私はそれを止めることはできない。オープンか、クローズか、選ぶのはあなたなのだから。
今回の試みも、個人に自分の情報を返還するという試みのひとつだ。いままでscoutyが独占していた個人に関する情報を、本人に公開することによって自分のどの情報が収集されているかを確認することができるようにする。今後も、自分の情報を透明化し、コントローラブルにするための機能を追加していく予定だ。 これからも、我々が抱える情報をオープンにしていきたい。
面白そう、と思う方がいれば、ぜひニュースレターならびに本公開において登録してみてほしい。