あなたは自分の納得感に基づいて仕事をしてはいけない

Hiroki Shimada
7 min readFeb 3, 2019

組織の全員が納得する意思決定は基本的に存在しない。だからこそ、組織において意思決定は難しい。たとえば、あなたがスタートアップのCEO(この記事では今後これを「意思決定者」と読み替えても良い)で、会社で新サービスを作ろうとしたとする。これについて社内で意見を聞いてみたところ、いろいろな答えが返ってきた。

  • CTOは「リリースしてうまく行かなかった時のために、最初にリリースする機能はできるだけ小さくしてほしい。」と言う。
  • 営業マンは「こういう機能があったら絶対に売れる自信がある。この機能をぜひ入れてほしい。」と言う。
  • COOは「今は新サービスに行くべきときではない。既存製品に集中すべきだ。」と言う。
  • 投資家(株主)は「今のサービスが頭打ちしそうだから、早く新しいサービスを仕込まないと1年後ひどい目を見る。」と言う。
  • デザイナは「一緒に最高のものを作りましょう。作るのがもう待ちきれない。実は、昨晩素案を作っちゃいました。」と言う。
  • CFOは「最近キャッシュフローが心配だから、とにかく売上を上げるサービスを作って欲しい。」と言う。
  • 新しく入ってきた社員は「この新サービス、売上を上げるかもしれないけどビジョンの達成につながるんですか?」と言う。

こういう時、あなたならどうするか?当然のことながらこういった要望すべてに答えることはできない。会社が15人くらいのときはなんとかなったかもしれないが、それを越え始めると矛盾した要望が出るようになる。それらは一見矛盾はしていないので真っ当な意見に思えるが、いざ決行すると同時にできないようなものが多い。しかし、CEOはそれでもひとつの決定することを強いられる。会社を殺さないために。

非常に難しい問題だが、こういった問題に対応する方法は3つある。

1つ目の解決策:無関心

1つ目は、社員がCEOが下した意思決定に関して無関心でいることだ。逆に、CEOは社員の意見を無視する。私見だが、世の中の70%の企業はこのやり方でこの問題を解決している。

例を挙げるならば「最近、うちの会社が●●っていうビジョンとミッションを打ち出したけど、何も理解できないんだよね」といったものだ。「なんでCEOに言わないの?」と聞くと、「どうせ言っても変わらない」「もう決まったことだからしょうがない」「言ったけど無視された」という回答が返ってくることが多い。そもそも、大企業のように社員が一定数を超えると、組織構造上こういう不満を伝えることすらできなくなる。

実際のところ、このやり方はそこまで悪くはない。なぜならこのやり方は物事をスピーディに決められるからだ。しかし、社員のコミットメントが下がる。一言で言えば「納得していないからコミットしない」というスタンスだ。

2つ目の解決策:納得行くまで説明する

2つ目は、意見を言ってくれた社員に納得行くまで説明することだ。世の中の25%の企業は、このやり方又はこのやり方と1つ目の解決策とのハイブリッド型でこの問題に向き合っているだろう。

冒頭の例で言えば、もしあなたが新しいサービスを小さくリリースすることを決めれば、

  • COOに対して「新しくサービスをリリースしないと自分らは1年後死ぬのだ。」という説明をしなければいけない。
  • 営業マンに対して「開発リソースがかかるから始めは小さくリリースしたい。」という説明をしなければいけない。
  • 新入社員に対しての説明は難しいかもしれない。が、新サービスがビジョンに貢献することを説明しないといけない。

これは組織として良い兆候かもしれない。皆が組織に対して強い関心を持っている証拠だ。皆、本気で組織のことを考えているからこそいろいろな意見が出るのだ。納得感があればコミットメントも強くなる。しかし、このやり方には大きな問題がある:このやり方はスケールしないということだ。全員に納得するまで説明していたら、膨大な時間がかかる。社員が30人を超えると、CEOの大半の仕事は社員の説得ということになりかねない。これはコンセンサス型の経営と言い換えることもできる。一言で言えば「納得したからコミットする」というスタンスだ(「納得出来ないことにはコミットしない」という意味では、1つ目と近い。)。一見理想的な形態に思えるが、これには「すばやく意思決定できない」という大きなコストが伴うことを忘れていはいけない。すばやく意思決定できない組織には、往々にして死が待ち受けている

3つ目の解決策:納得感に基づいて仕事をしない

では、スピードとコミットメント両方を損なわないやり方はあるのだろうか。それは皆の納得感が得られる解を探すことを目指さないことだ。おそらくこれが実現できている企業は全体の5%にも満たないだろう。これは1つ目の解決策と紙一重だが大きな違いがある。

納得していない状態でYESというのは簡単だ。しかし、YESということと本物のコミットをすることには信じられないくらいの差がある。
納得していないことにコミットするには、意思決定者に対して「彼は、自分の思いつくようなことはもうすでに考えたはずだ」と信じ切っていたり「彼は自分らの言うことを決して無視するような人ではない」「あいつが言うならきっと正しいのだろう」という信頼が必要だ。そのようなときに初めて「納得はしていないけどコミットする」という状態が生まれる。あるいは、ホラクラシー組織はひとつのアプローチかもしれない。意思決定範囲を明文化して、その範囲では意思決定者の決定に従うことについて合意を取るという仕組みだ。しかし、ホラクラシー組織であってもこの解決策を取るのは非常に難しい。相当な訓練をしない限り、自然にしていると人は自分の納得感を求めて動くからだ。

CEOは「納得行かなくても俺の決定にコミットしろ」というわけではない。(これは1つ目の解決策にほかならない。)説明責任はどこまで行っても存在するし、自分の考えていないことを指摘されたのなら、素直に認めて意思決定を巻き戻す覚悟を持たなければいけない。
この一連の考え方は、人々を納得させる議論に時間をかけても大して意思決定の質は上がらないという前提に立っている。意思決定の質を上げるなら、意思決定者の考慮漏れを指摘すれば十分なのだ。意思決定者が考慮漏れがないと判断したなら「考慮漏れは無い」と言えば十分なはずなのだ。説明を求められれば当然説明をするべきだが、そこで全員の納得を追求してはいけない。もし組織の全員がこの状態に入れば、人は自分の納得感のため意見するのではなく、純粋に解決策の質を上げるために意見していることになる。この状態はスピーディでスケールする上、信頼が根底にあるため、コミットメントを最高級に維持してくれる。だが実現するのはとても難しい。それでも、私はこのような組織を実現したいと思う。

全員が納得する答えもそのための時間も、スタートアップには最初からないのだ。スタートアップのCEOもとい社員は、社内の人々を幸せにするために仕事しているわけではない。社会に対して大きな変化をもたらすために仕事しているのだ。だから、あなたは自分の納得感に基づいて仕事をしてはいけない。

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Hiroki Shimada

CEO at Polyscape Inc. / Producer & Director of MISTROGUE / ex CEO at LAPRAS Inc. / MSc in Artificial Intelligence at University of Edinburgh